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後輩
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夕飯時。
ガランとした食堂で、暁は一人で食事をしていた。
食堂は8月の上旬まで開いているので、それまで利用することにした。
今この場にいるのは、暁と一人の生徒だけだった。
その生徒は暁の2~3倍の量を食べていた。
運動部か元々大食いなのだろうか。
(何であんなにたくさん食べれるんだろう…胃が大きいのかな)
見てるだけで満腹になりそうな量を食べている生徒を一瞥し、暁はもくもくと箸を進める。
(…ダメだ、食欲が無いや)
苛めにあって以来、暁の食欲は急激に減っていた。
残さずに食べている定食も、半分か酷いときは2\3は残している。
体重計が無いので計った事は無いが、恐らく5kgは減っているだろう。
(食堂の人達に申し訳ないな…)
暁が食器を片そうと席を立った。
「なぁ、それ食わねぇの?」
前方から声をかけられ、顔をあげると大量に食べていた生徒がいつの間にか向かいの席に座っていた。
「あ、うん。もうお腹いっぱいだから…」
「えぇー!もったいないなぁ。じゃあ俺にくれよ。まだ食い足りなくってさ」
そう言うと、その生徒は暁から定食を奪い、がつがつと食べ始めた。
その食べっぷりに暁は唖然としたまま見ていた。
暁の残した定食はあっという間に平らげられてしまった。
「はぁー食った食った!」
「…凄いね。あれだけ食べたのに、まだ食べられたんだ」
「んー?まぁな。剣道って動きまわるわ声だしするわ色々あるからすっげー腹減るんだよね。あ、俺は剣道部の東野 茂忠ー以下、東野ー。よく「ひがしの」って間違われるけど、「とうの」だから。「ひがしのとうの」って変なあだ名で呼ぶ奴もいるけどな」
勝手に自己紹介をされ、暁はついていくのがやっとだった。
ため口を叩かれているが、恐らく後輩だろう。
3年に東野という人物はいなかった。
「ところで、あんたの名前は?」
「えっと、蔵元 暁。あの、僕は一応3」
「暁、ね。眼鏡が特徴的だから、眼鏡ちゃんって呼んでいい?」
話を遮られた上に、妙なあだ名をつけられた。
人の話を聞かないタイプだ。
諦めて東野のマシンガントークに耳を貸すことにした。
「他の運動部は合宿に行ってるみたいだけど、剣道部は合宿は無いの?」
「いや、あるぜ。盆休みに入る前ぐらいだったかな?だから、俺は8月になったら実家に帰るんだ」
「へー…運動部の合宿って大変そう…」
「大変そうじゃなくて大変。俺は今回で二回目だから分かるけど、去年の厳しい練習メニューを思い出しただけで…ゾッとするし腹も減る」
東野は深い溜め息をついた。
かと思えばすぐに目を輝かせた。
「でもな!アニキの練習風景が見れるのがすっげー楽しみなんだよ!部活の時でも見れるっちゃ見れるけど、時間が短いんだよ!合宿だったら長時間見てられるし、何より練習試合の時がすげーの!普段とは想像できないような声で面!とかこて!とか!」
早口で捲し立てられ、暁はちょっと引き気味になった。
頃合いを見て、暁は話しかける。
「その、アニキって誰?お兄さん?」
「違う違う、西城!西城 東一先輩!惚れ惚れするほどかっけーからアニキって呼んでるんだ!」
ーー西城。
その名前を聞き、暁は固まった。
まさか西城と関わりのある人物に遭遇するとは思わなかった。
彼は、西城が山上達と共に行動していることを知っているのだろうか。
そして、自分を抱いている事も…
「あの、僕、西城君を知ってる、というか同じクラスなんだけどさ…」
「えっ!じゃあ先輩!?うっわ、思いきりタメ口叩いてた!すんません!!」
あ、やっと伝わった。
西城効果の凄さを感じつつ、暁は質問をした。
「僕、西城君と同じクラスになったばかりだから彼の事あまり知らないんだ。だから、どんな人か教えてくれる?」
「いいっすよ!じゃあまずはアニキのかっこよさからで!」
「ごめん、それはいいや…」
話したら長くなりそうなので暁は断った。
しゅん、と東野が残念そうな顔を浮かべたのを見て、犬みたいだなぁと思った。
「どういう人って、かっこいい以外に何て言えばいいんすか…」
「えーと…」
まさかここまで残念がるとは思わなかった。
ちょっとだけ罪悪感に苛まれつつも、暁は質問を続けた。
「普段は何してるの?部活とか合宿の時だけでもいいから分かる範囲で」
「何してるって…稽古以外は殆ど何もせずに座ってるかぼーっとしてるっすよ。あ!座ってる時の姿勢もめっちゃかっこいいんすよ!」
「あー…そうなんだ…」
話が脱線しそうなので、要件だけ聞いて済ませることにした。
「…西城君ってさ、笑ったりとか怒ったりとかするの?」
「そういや見たことないっすね。いつも無表情だから…まぁ、そこがいいんすけどね!」
「あ、あのさ!もし、笑ったらどんな顔をするんだろうとか、怒ったらどれくらい怖いかなとかって考えたことある?」
「そりゃもちろん!無表情もかっこいいすけど、表情が変わる所は見てみたいっすよ!多分、他の人もそう思ってるんじゃないすかね?」
「だ、だよね!そうだよね!…よかった」
「よかったって何がっすか?」
「な、なんでもない」
安心した。
自分以外にも西城の事が気になっている事に。
本当は山上達と行動している理由も聞き出したかったが、知らなさそうなので黙っておくことにした。
苛めのグループと一緒にいる上に自分を抱いているなんて知ったら相当ショックを受けるに違いない。
「あ、じゃあ僕そろそろ戻るね。色々ありがとう」
「おつかれーっす。あ、眼鏡ちゃん!…先輩」
「…呼びやすいならそれでいいよ」
「じゃあ眼鏡ちゃん!」
(先輩はつけないんだ…)
「もしよかったらなんすけど、メアド交換しないっすか?何か眼鏡ちゃんとは話が合うような気がするんすよね!」
(一方的に話を聞かされてるだけだけどね…)
「あ、ごめん。携帯は持ってないんだ…」
「えっまじすか?今時珍しいっすねー持っておいた方が便利っすよ。いちいち公衆電話見つけるの大変でしょうに」
「そうなのかな…そうかも…ちょっと、相談してみるね」
「買ったらメアド教えてくださいね!で、アニキの表情が変わったりしたら写真撮って送ってください!宝物にするんで!」
「うーん…善処するよ」
「じゃあまた!」
嵐のような一時だったが、暁はだいぶ気が軽くなった。
初めて出来た後輩に思わず笑みを浮かべる。
「今度、お姉ちゃんにお願いしてみようかな…」
ちゃっかり食器をそのままにされたので、片付けてから部屋に戻った。
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