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憂鬱
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突然どこからか靴が飛んできて、バシッと母親の頭に直撃した。
飛んできた方を見ると、葉月が怒りの形相で母親を睨み付けていた。
「何であんたがここにいるんだよ…!」
「ふん、可愛いげのない美貌の登場か。アンタもその顔を使って少しは外の世界を楽しめばいいのにね。弟の方がよほど有効活用してるわ」
「帰れ!二度と私達の前にその顔を見せるな!あんたを見てるとムカツクんだよ!」
「…同じ顔をしてるクセに」
母親は不満そうな顔をすると、暁の耳元に口を寄せた。
「もしその人に飽きたらアタシに相談しなさいな。アタシがアンタに似合う男を連れてきてあげる。まぁ…アンタみたいな淫乱ビッチなら誰でも大丈夫か」
「…っ!」
暁は目を強く瞑り、母親の言葉を聞こえないふりをした。
母親は小さい紙を取りだしてサラサラと何かを書き出し、暁のーー正確には西城のーーズボンのポケットにそれを入れた。
「はい、これアタシの携帯の電話番号。いつでも待ってるわよ」
「さっさと帰れ!遊び人!」
「分かってるわよ、うるさいわねー」
葉月に急かされ、母親は渋々と帰っていった。
暁は西城にしがみついたまま、震えていた。
葉月は落ちていた靴を拾って履き、暁の側に駆け寄った。
「暁、暁、大丈夫。あいつはもう帰ったよ。さ、家に入ろう」
こくり、と暁は小さく頷いた。
葉月は暁を抱き寄せ、西城を見た。
「ごめんね、送ってもらった上に見苦しいもの見せちゃって…」
「…大丈夫…です」
「本当はお茶とか出したいところなんだけど、暁がこの状態だから…悪いけど…」
「…いいっす。送ったらすぐに帰るつもりだった…です」
敬語に慣れていないのか、西城は不自然な敬語を使った。
「あ、借りた服は洗って暁に返させるね。同じ寮だよね?」
「…はい」
「じゃあ、今日はありがとう」
そう言って、葉月と暁はアパートに戻り、西城も自分の住む家に戻って行った。
「暁…ココア持ってきたよ。これでも飲んで落ち着きな」
「…うん、ありがとう、お姉ちゃん」
暁はベッドの上で踞って座り、弱々しい返事をした。
葉月は暁の頭を優しく撫でた。
「あいつの言うことは気にしなくていいよ、ただの妬みだから。あいつは自分より綺麗な子供が気にくわないだけ。暁は悪くないよ」
「…うん」
心ここにあらずというように、暁は小さく頷いた。
それっきり、暁は何も言葉を発しなかった。
すると、突然葉月の携帯が鳴り出した。
葉月は携帯の画面を確認し、電話に出た。
「はい、はい…分かりました。すぐに行きます」
パタンと携帯を閉じると、未だに踞っている暁に顔を向けた。
「ごめん、仕事先の人から電話がきてさ…夕飯までには戻ってくるから」
「うん…いってらっしゃい…」
葉月の出かける準備を聞きながら、暁はか細い声で答えた。
パタン、とドアの閉まる音と同時に、暁は踞った体勢のまま横になった。
「………」
ふと、母親から貰った連絡先をポケットから取り出す。
初めて貰った母親の連絡先を暁はじっと見つめた。
「…そんなに、女の人みたいな顔をしてるのかな…」
しばし考えた後、暁は震える手で自分の携帯からその番号を押した。
8コールくらい鳴らした時、電話の相手が出た。
「あら、さっそく連絡くれたのね。素直で嬉しいわぁ」
「あの…ぼ、僕、自分が、その…どんな顔をしてるのか、分からなく、て…」
しどろもどろになりながら、暁は母親に尋ねた。
うーん?と母親が電話の向こうで唸った。
「どんな顔って?」
「お、女の人みたいな、顔をしてるって…」
「あぁ、欲情した顔ね。それは鏡で自分の顔を見てみればいいじゃない」
「で、でも、見たことないから違いが、分からなくて…」
「ていうか、何でそんなこと知りたいの?」
訳が分からないというような声で母親は質問してきた。
暁は声を振り絞って答えた。
「も、もう女の人みたいな顔って言われるの嫌、だから…そんな顔をしないように、直したいって思って…」
「アンタねーその顔は遺伝なんだから整形しない限りは無理に決まってるでしょ」
ばっさりと答えた母親の言葉に、暁は言葉を詰まらせた。
しかし、母親は楽しそうな声をあげた。
「まぁ、でも、欲情した顔が見たいって言うなら手伝ってあげるけど?今ちょうどバイのやつも交えて飲んでるところだし」
「…バイ?」
「男も女もイケるやつ。アンタにピッタリな相手だと思うわよ。ヤる?」
「い、いい、いらないっ」
慌てて暁は電話を切った。
緊張で心臓がドクドクとうるさかった。
落ち着こうと深呼吸をし、葉月が作ってくれたココアを一口飲んだ。
「…はぁ」
一息つき、窓の外を見た。
雲ひとつ無い青い空、けたたましい蝉の鳴き声。
何度も見てきた光景が何故か憂鬱に気分にさせた。
しかし、その気分がどこか心地よかった。
「散歩、しようかな…」
残りのココアを飲み干し、自分の服に着替え、葉月へのメモを残して暁は外に出た。
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