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Invitation(招待状)
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その時、白島のスーツポケットの中で携帯が振動した。取り出して画面を開くと「非通知」の文字が表示されている。不審に思い通話ボタンを押すのを躊躇っていると着信がすぐに途切れ、入れ替わるようにEメールが届く。
携帯を眺めていた白島は助手席に座るテルにそれを手渡した。
『 本日午前2時 港区SENTDOLLビル 8F にてお待ちしております 』
画面には簡潔な文章が羅列していた。
「どうやら俺達が情報屋に頼った事がもうむこうに知られたらしいな。家に帰った所でお出迎えがありそうだ」
白島は運転席の窓を少し開け、胸ポケットから煙草を取り出して咥える。
「招待状だよ」
*
電力を落とされ真っ暗なファッションビルの非常階段を登りながら運び屋は自身の後ろを続く影に声をかけた。
「別に逃げたって良かったんだぞ?」
「…逃げてもどこまででも追ってくる」
「そーだな…。だが、お前はついてこなくても良かったさ」
8階のブティックモールへと続くドアの前で白島は立ち止まってテルを見下ろした。睨むような鋭い瞳と目が合う。その表情に緩く笑み返しドアを開けた。
フロアはシャッターの降りた店が連なり、中央には下へ降りるエスカレーターが伸びている。ここが最上階だ。二人は周囲を警戒しながらゆっくりと進む。白島が腕時計を確認すると時刻は2時5分を過ぎていた。
ふ、と他者の気配を察知し右手を伺えば、ここから離れた店と店の僅かな隙間から小さな赤い点がこちらを狙っているのが垣間見えた。マークスマンライフルの光学センサーだ。照準は後ろに当てられている。
「テル!」
咄嗟に相方の腕を手前へ引いて抱き寄せると庇うように地面へ伏せる。直後、二人の上を弾丸が通過し近くにあった店のシャッターに着弾する。
「走るぞ!」
「…!」
二発目を転がってかわすと運び屋は腰から鞘を抜く。テルは素早く起き上がり狙撃手の方へ一目散に攻めていった。
ライフルの弾を素早く避け射程距離に入ったテルは拳銃を構え敵に反撃し始める。店の隙間から人影が逃げて行くのが見え、少年はそれを追いかけた。
「おい!テル!待て!」
慌てて呼び止めようと走り出したとき、ブーメランのような回転音が背後から白島に迫る。刀で薙ぎ払うと金属音が鳴り、弾かれたそれがワイヤーによって引き戻されいく。
同時に、周囲が仄かに明るくなった。
フロアに並ぶ店とシャッターの間に取り付けられた間接照明が何者かの手により一斉に点灯し始めたのだ。暗闇から僅かな光を得て視界がひらける。
己を攻撃してきた方向を見て、白島は戦慄した。
頭に包帯を巻いた桃色の髪の男が両手に鎌を携え此方に向かって歩いてくる。その人物は、紛れもなく数日前に殺したはずの男だった。
「バカな…、ゾンビか…」
掃除屋からの電話の内容が頭をよぎり思わず口をついた言葉に、桃色の男はニヤリと口角を吊り上げて笑う。
「久しぶりだなァ…運び屋サン」
「お前…!何で生きてる…!確かに死んだはずだ」
「ヒヒヒヒ、テメェが忘れられなくてなァ悪魔と契約してきたのさァ」
低い声で答えながら襲いかかってくる二つの刃を受け止める。至近距離でみた男の表情は獲物を狙う獣のように獰猛な殺意に満ち溢れていた。力一杯鎌を振り払い、再び対面する事になったアシバと刀を交える。
やはり相手の予知能力は健在で、攻撃は流れるように躱されていく。
後方でガラスの割れる音と銃声がひっきりなしに響き渡るが、今はアシバを放ってテルの元へ向かうのは難しい。
相方の無事を祈りつつ、目の前の敵を捕縛する事に集中する。アシバの背後にある組織について聞き出さなければならない。それが出来ずとも何とか勝ち目を見出さなければ。
「クッ…どうなっていやがる…」
首を振り考えを整理すると鞘を力強く握り身構えた。
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