アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
It is worth a try.(試させて)
-
白島は大きく息を吐き背後にあったボンネットに一先ず箱を置くと、持っていた鞘をしまった。箱の中身は無事だ。この少年の仕事っぷりを一言で表すなら「お見事」に限る。「あっぱれ」でもいい。
「人は見た目によらねぇとはよく言ったもんだぜ…」
煙草を咥えた白島の腰から提げている刀をジッと見つめていたテルが首を傾げた。
「なんで、ソレ抜かない?」
「あ?」
ソレ、とは鞘のことだ。先程の戦いの事を言っているらしい。彼は一度も鞘から刀を抜かなかった。ふう、と一服煙を吐いた白島は再び鞘をベルトから引き抜く。
「抜かないんじゃなくて、抜けねえんだよ」
右手で柄をもちぐっと引っ張るが以前と変わらずビクともしない。試してみろ、と刀をテルへ渡す。
「四年くらい前に仕事の報酬として依頼主から貰ったんだけどな…。なんでも名刀らしいんだが貰った時から抜けねえんだ。いろいろ試したが駄目だったよ、もう中身が錆び付いてるのかもしれねえ」
力を込めて引っ張り続ける幼い手を見つめながら白島は思わず微笑んだ。
「だから鞘を壊そうと思ったんだ。けどこれもなかなか頑丈でな、ヒビ一つつかねえんだよ。だからいつか割れる日がくるまで鞘のまま使ってんのさ」
抜くことを諦めて刀を返した少年の瞳には好奇心の色が宿っていた。
「壊していいの?」
「おう、壊せるもんならな…」
表情の乏しいテルの顔に少なからずヤル気の満ちていた事に煙草を噛んでいた男は驚いた。
彼は白島から距離をとり、ポンチョの裏から先程とは違う銀色のリボルバーを取り出した。一般的な拳銃より一回り程大きい。
「おいおい、そりゃあ何だよ」
半笑いで、白島は鞘を撃ちやすいように地面に並行にかざした。
手袋を嵌め直す少年はいかにも意気込んでいるように見える。草に片膝をつき、両手で握ると大きなリボルバーで狙いを定めた。
二人の間にほんの僅かに緊張した空気が流れる。
カチッとトリガーを引く音が鳴った刹那、鞘に衝撃が走った。サイレンサーのない銃声が、敵を射抜いたピストルと比べ物にならない程大きく反響する。
鞘に当たった弾は煙を上げ、漆で黒光りする表面を貫く事なく地面へ………落下した。
その光景に納得がいかなかったのか引き続き構えるテルの為に、白島は今度は力を込め両手で柄を持つ。連発されると刀を握っていられない。
パン、パンパン、パンと続けざまに放たれた弾はどれも鞘の、一発目が触れたあたりに命中する。凄まじい射撃力だ。
トリガーが弾切れの音を知らせた。五発全て使い切ったが、新しく弾を込める気はないようだ。ゆっくりと近づいてきたテルに、白島は薄く煙の吹いた鞘を自分の目の前に翳す。
弾が当たった箇所は壊れてはいないが、漆の塗装が剥がれ丸く凹んでいた。
「見ろよ、ここまで傷つけたのはお前が初めてだぜ?」
その傷をじろりと眺めるも、当の本人は不満一杯、といった様子だ。
「刀が壊れなかったこともスゲェがあんな銃ぶっぱなすお前もスゲェな…肩イッてねえのか?」
黙ったままリボルバーを収めるテルの手つきは軽く、とはいかず。
「めちゃくちゃ震えてるじゃねえか。無理すんなよ…」
いかにも痛みを堪えている少年を見、白島はその小さな肩を軽く叩くと苦笑する。短くなった吸殻を地面で踏み、そのまま車へ乗るよう促した。
「普通、鞘ってのは二つの木が合わさってできてんだ。手入れをする時はそれを縛ってる紐を解いて割るんだけど、こいつァ紐解いても割れねえし…はたして木でできてんのかも謎だな。やっぱり錆びてるんだろ…」
慰めるような白島の言葉にテルは表情を悔し気に歪めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 49