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omelette(オムレツ)
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遠くから食器の鳴る音で目が覚めた。ブラウンのカーテンの隙間から漏れた日光がベッドのシーツをチリチリと焼き付けているようで、その光をぼんやりと見つめ微睡んでいたテルは突如思い出したように跳ね起きる。
視界一杯に広がる、見慣れぬ清潔感のある部屋。質素な家具。
室内にはクローゼットとダブルベッド、そして丸いサイドテーブルしかない。自分の身体に合わない大きなオレンジ色のTシャツの襟が肩から滑り落ちた。
己の掌を見てようやく脳内が覚醒する。
新しく相棒となった男に情をかけてもらい、居候することになったのだ。昨夜の会話を思い出しながら、不審な点を数えた。
男は見返りを要求していない。滞在費は払わなくていいのだろうか。部屋が余っているからと、こんなに簡単に他人を住まわせるものなのだろうか。気前がよすぎる。
サイドテーブルの上には今まで着っぱなしだったポンチョや靴下、スボンが乱雑に重ねられていた。
昨日風呂に入れられると同時に「臭い」と剥がされたものだ。手に取ればふわりと洗剤の香りがする。
そうして少年はふと、納得した。
彼はお人好しなのだと。
リビングの戸を開けると、キッチンで白島が皿を洗っていた。
着替えを済ませ部屋から出てきた少年はこれから何をすればいいか分からず、その場に突っ立っていた。
そんなテルに気がついた彼はカウンターの上を指差す。
「食えよ」
キッチンカウンターの上にラップのかかった皿が一つ。中はケチャップが乗ったオムレツとトマトにレタスが添えてある。
「お前の分だっつの」
顎で促されようやくハッとなったテルは近くにあった椅子を引っ張りカウンターの側まで寄せた。
ラップを剥がし、まじまじと料理を見つめる。白い皿に乗ったオムレツは決して豪勢ではなく一般的な家庭においては簡素な物だ。しかし、テルにとっては違った。
食い入るように見つめる少年の前に焼きたてのフランスパンとミルクを添えてやる。フォークを握ったまま動かないテルに白島は呆れた。
「あのなぁ、毒なんか入ってねえからさっさと食えよ」
「…」
小さく頷き、漸く食べ始めたのを確認して白島も作業を再開する。
「ったく…今までどんな食生活してきたのか、同情するぜ…」
半分ほど卵を平らげたところで、食べる手を止め少年は気になっていたことを呟いた。
「はぁ?見返り?」
白島は嘲笑しオムレツを口いっぱいに頬張る居候を試すように目を細める。
「じゃあお前は俺になにをしてくれるっていうんだ?金ならいらねえぞ。テメェがミスなんかしなきゃ儲けは充分入る」
白島の言うとおり、自分には何が出来るのだろうか。交渉できるだけの材料を一切持ち合わせていない。己に出来ることと言えば、命じられたことをただ遂行するということ。
聞くだけ無駄だったのだろうか。
どうせ、この場所にいつまでもいるわけじゃない。
皿を洗う男の手際の良さにみとれながらテルは最後の一口を飲み込んだ。
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