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tell me(教えて)
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白島がテルと組んで一週間と少しした頃。
再びテルの発作が起こった。しかし場所が彼らの住むマンションだったため前の発作よりも冷静だった。ピルケースを取り出し赤と白の模様をしたカプセルを飲む。
それを見ていた白島はピルケースを再び収めようとしたテルの手を抑え、ケースを奪い取った。
「!」
容器は透明でただのプラスチック素材。使用量や薬の説明などは一切書かれていない。テルに届かないように腕をかかげそれを観察していた白島は己の腹部辺りにある頭をじっと見下ろす。少年は何をされるのかと不安一杯の表情で見上げ、声を震わせた。
「返せ…」
しかし、ケースを彼に渡さず言葉を遮る。
「お前、この薬…お前の体が小さいままなのと何か関係があるんじゃないのか」
車内で発作を起こした時に気になっていたことだ。びくり、と小さな体が反応する。
どうやらビンゴ。
「これは成長を促す薬か?それとも成長を止める薬か?それとも…」
「あんたには、関係ない…っ」
ぐっと押し潰したような声でテルは飛び上がると相手からケースを取り返した。そして自分のズボンのポケットへしまう。その動作を冷ややかな目で見ていた白島は大きく溜め息をついた。
「確かに俺はお前の過去や事情を詮索する権利は無い…。今までだって何も答えてくれねえからこの際言わせて貰うが…」
くわえていた煙草を唇から離し歯の隙間から煙を押し出した。白煙はあたりに流れるように漂い空気に溶け込んで行く。
「俺はお前のことを何も知らないから一々聞いてんだ。仕事やその他の面でお互いを理解してないとフォローする時に不利だからだぞ。
勿論、それが余計なお世話だとかいい迷惑なんだったらしねえさ。
俺もお前のフォローなんざいらねえよ、真っ平御免だ」
黒い視線は同じく黒いテルの瞳へ突き刺さる。
「でもそんな関係が長続きするとは思うなよ。お互いのミスをカバーできないんだったらパートナーを組んだ意味がない。一人で仕事がしたいんだったら他あたれ」
言葉を投げた後、白島は煙草を片手にテルへ背を向けた。そして自室の前まで歩くとそのまま立ち止まる。
「俺たちはパートナーを組まされたんじゃない、自分の意思で組んだんだ。その違いを…お兄さんは分かってて欲しいと思ったんだけどな〜」
後半は棒読みで、嫌味っぽく説明すると白島は扉を開け部屋の中へ消えた。その場に立ち尽くしていたテルは扉の閉まった音でようやく振り返り口を開きかける。
しかし言葉が出てこなかった。
呆然としたまま白島の言ったことを心の中で反芻する。
彼の言ったことがもっともだった。
テルが戸を開けると部屋のベッドの上で白島が寝転がっていた。額の上に腕を乗せ、目元が隠れているため眠っているのか、休んでいるだけなのかは分からない。
テルの部屋にあるダブルベッドとは違い、彼の部屋にあるのはシングルベッド。そしてクローゼットと衣装かけ、隣にある黒いカラーボックスの中には何も入っていない。
窓は網戸のまま開け放されカーテンが風で揺らいでいた。いつも白島が吸っている煙草の匂いが室内にしっかりとこびりついている。枕元にあるサイドテーブルに置かれていた灰皿の中には吸殻が散らばってた。
一歩、ベッドへ近寄る。この部屋に入るのは始めてだ。居候を始めてまだ二週間目に突入したばかり。同じマンションの部屋で暮らし始めたとはいえお互いに干渉したことはない。全くしようとしないから、白島に先程忠告されたのだ。
テルの気配を感じた白島は、動かないまま低く唸った。
「なんだ」
「………腹が減った」
言いたかったのはこんなことでは無かった。昼飯の時間はとっくに過ぎて空腹なのは間違いではなかったが、白島の迫力に負けてどうでもいいことを先に口走ってしまう。おかげで肝心な話をするタイミングを自ら失ってしまった。
「…冷蔵庫から好きなもんだして適当に食えよ」
めんどくさいといったニュアンスで白島は寝返りをうち壁側を向いた。しかしテルはその場を動かなかった。
「料理は、できない」
か細い声に、寝そべっていた男は身体を壁側に向けたまま首だけを後ろへ捻り、テルを一瞥したあとまた壁の方を向く。
「そーか。じゃあ俺が起きるまで飢えて苦しんでろ」
素っ気ない返事にテルはほんの少し眉をしかめる。じっとその背中を見つめていたが他にかける言葉が出てこず諦めて部屋を出た。
元より会話を好む性格ではない。育てられた環境もありそもそも他人と話すことが無かった。友達ができたことはなく、今では家族もいないも同然。
だから、コミュニケーションで悩んだことは無かった。喋る必要が無かった、自分の意思を伝えるということに重要性を見出せなかった。
言われたことをこなすだけでよかったのだ。
これからも、そう思っていた。
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