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compensation?(そうではない)
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その時、スパァァァン!という荒々しい音ともに部屋の襖が勢いよく開いた。ギョっとして驚いた2人が振り返ると、片腕に白猫を抱えたテルが白島達に冷ややかな視線を向けて立っていた。その背後では見張り役の組員が挙動不審な態度で組長と少年を交互に見比べている。どちらかというと、室内の様子よりテルの容赦ない行動に困惑しているようだ。
「……。」
「……。」
数秒間少年と見つめあって火花を散らした八熊だったが、渋々白島の上から離れると「良いところだったのに」とぼやいて立ち上がる。去り際に自分の部下にオラァと八つ当たりのような威嚇をして階段を降りていった。
廊下で立ち尽くす哀れな組員に猫を押し付けたテルは茫然自失状態の相方の元へ静かに歩み寄る。
少年の軽蔑とも同情とも取れる眼差しを受け漸く我に返った白島は、助かったと安堵すると同時に途轍もない恥辱に襲われ、決まりの悪い顔で体を起こした。彼の喉元に紅く散った痕跡を目の当たりにしたテルは顔を顰め鋭く言い放つ。
「お前は、どこまでもお人好しだな」
その言葉が突き刺さったのか、赤面したまま白島は相手を睨むが一方は気にせず続ける。
「なら、好きこのんであの男を受け入れるのか」
「……、違う」
「じゃあ何故だ」
その問いに白島は口を噤んで目線を下げた。いつもと違った相方のつんけんとした威圧に些か萎縮している。
返事をしない彼にテルは余計に表情を曇らせた。
「自分の事を一番に考えればいいだろう」
短い期間でも共に過ごしてきて相手がそういうタイプで無い事は重々承知だが、言わずにはいられなかった。
「もし、俺が売り飛ばされる事になろうが構わない。その時はここを敵に回す。それだけだ」
そのような状況にならない為に、自ら犠牲になる事を選ぼうとする。分かってはいるがこの考え方が気に食わない。自分にとっては最善策かもしれないが、仲間にとってそうではない。それこそ自己満足に過ぎない。
「仕方がないから、という理由でお前に借りを作ることの方が意に反する。それで俺が喜ぶとでも思うのか」
八熊は白島が欲しいだけだ。他人を捨てるか自分を捨てるか、二択に見せかけて最初から一択しか与えていない。反抗できないのをいい事に勝ちを確信してちょっかいをかけるのだ。何故それが分からないのか。
考え出したテルの頭の中は徐々に白島に対する疑問で埋め尽されていく。彼はこの世界でしか生きられないのでは無い、ここで生きる為に順応しようとしている。
その行為に少なからず心配してしまう自分がいるのだ。
もはやこれ以上言う必要は無いと、テルは不満を背負ったまま再び部屋を出た。
「すまん…」
ピシャリと誡められ、静かな苛立ちを感じ取った白島は肩を落として小さな後ろ姿に謝罪を投げる事しか出来なかった。
正直な所、見た目に惑わされテルがまだ子どもだと無意識に思い込んでいる。普段は殆ど感情を表に出さないが、ちゃんと青年としての考えを持っていることを改めて実感した瞬間だった。
*
一人になったテルは特に理由もなく庭をぶらついて地面に散った紅葉を拾った。
枯れて茶色く色褪せてしまった葉を冷たく澄み切った夜空に浮かぶ月に翳して眺める。
怒りは既に収まっていたものの、己の中の感情を整理できないままでいた。昔は、こんな風に色々考えたことは無かった。
間違いなく彼に影響されている。
部屋で見た白島の体を思い出し、ふと疑問にも似たような感想を抱く。以前にアシバとの戦いで負った傷もすっかり癒えていたようで、無茶をする割に綺麗な肌をしていたと、ただ純粋にそう思った。
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