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manipulate(操る)
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発砲音は八熊が逃れた方向から鳴った。予め知らされていた隠し扉から急いで地下へ降りると、側近の一人が主人であるはずの男に向かって銃口を向けていた。
八熊を庇ったもう一人の側近が血の滲む肩口を押さえ膝をつき相方を睨む。
「血迷ったか遊馬ァ!」
「ち、違ェ、俺じゃねぇ…ッ」
拳銃を構える腕を小刻みに揺らす男は自分の行動が信じられないといった表情で震え、明らかに挙動不審だ。最も遊馬(あすま)という側近は混乱に乗じて裏切る真似をするような人物ではない。八熊からの信頼も厚い。
「お頭ァ…逃げて、くださッ…」
引金が引かれると同時に飛び込んで弾を防いだ白島は遊馬を鞘で殴りつけた。彼は銃を手放し地面に伸びる。気絶した体は動かない。
「ESPか…?」
本当に遊馬の思惑ではないとしたら、この地下室のどこかにアンデゼールの仲間が光学迷彩で隠れ能力で操っているのだろうか。ぐるりと室内を見渡すが、最初の敵と同じく姿を捉えることができない。
その時、白島の背後でエコーがかかったような女性の声色が囁いた。
『白島拓人』
「…!誰だ!」
振り返ろうとした体は動かなかった。
「!?」
全身が硬直したかと思うと己の意思とは関係なく刀を握る手が持ち上がる。そして鞘を掴み刃を引き抜こうと力がこもった。自分の事なのにまるで客観的に眺めているかのような感覚に陥る。勿論刀は抜けない。
その動作を見た八熊とテルは彼までもが乗っ取られた事を直感した。
「白島….!」
「しまった…ッ」
(さっきの、名前か…!)
潜んでいるESPは厄介な能力の持ち主だが、自ら此方に攻撃する気は無いらしい。返事をした事が仇となった。
自制を試みるも虚しく白島の体は八熊めがけて襲いかかる。脱力しようと命令しているはずなのに糸で無理やり引っ張られているかの如く融通が利かない。
護衛の側近は失血が酷く動けず、テルは白島に銃を向けたが狙いが定まらない。
八熊は距離をとりながら何とか攻撃を躱すものの、刀を持った白島の戦闘能力とリーチの差から二発、三発と着実にダメージをくらっていく。
「くッ…シロ、」
「旦那!構わねェ撃ってくれ!」
彼は動揺しつつ懐の銃に手を伸ばしかけるが、操られてるとはいえ隙のない相手に払い落とされる。言動が一致していないとはまさにこの事である。
「撃たれたくらいじゃ死なねえよ、テル!」
「やめろッ」
相方の名を呼んで催促した白島を今度は八熊が遮った。だが、間合いを詰めた固い漆塗りが容赦なく男の脇腹を強く打ち付ける。
しまったと思うには遅く、骨を砕いた感触が腕を通して伝わり罪悪感で胸が締まった。意識だけが正常なのがあまりにも残酷だ。刀から手を離したくとも指は微かに痙攣するだけで手加減すらできない。
「旦那!!!!」
後ろへよろめき血反吐を吐きながら八熊は愕然とする相手を見上げ頰を緩めた。
「その顔、最高だなァ」
「…!」
——俺は旦那を殺してしまうのか?
この状況下で冗談を言ってみせる男に自分はどれだけ世話になっただろう。罵りもせず叱りもせず本気で止めに来ようともしない。
(アンタこそお人好しだ)
「逃げてくれ!!!」
腹を押さえ蹲る八熊にとどめの一撃を与えようと振りかざした時、テルのいる場所から銃声が鳴った。途端に体の力が抜け、カランと音をたてて鞘が滑り落ちる。
何が起こったのだと振り向くと少年のすぐ近くに血だまりがジワジワと広がっており、光学迷彩が破れ絶命した敵が現れた。フードの中は長い髪の女性で、どうやらテルを取り込む事に失敗したようだ。
「この女は訓練されていない。気配を殺すのが下手だ」
相方の賢明な判断によりまさに危機一髪という所で束縛を逃れた白島は胸を撫で下ろした。
「すまない、旦那」
ひとまず八熊と側近達の応急手当を始めていると、外へ続く階段から足音が降りてきた。
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