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inquiring mind(探究心)
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二人が景造の家に留まり療養を始めて幾日か過ぎ、テルの体は成長を始めると同時に負担がかかるのか長い時間眠り続ける事が多くなった。
先刻、透析を終えた後いつの間にやら眠ってしまっていた少年はぼんやりする頭を振って起き上がった。ここで治療する間テルに与えられた部屋は、かつて白島が過ごした部屋だという。
本棚には彼の私物である参考書や漫画が並べられてあり、クローゼットの中の衣類はそのままだ。テルが現在着ている服もおさがりである。
二人が同居しているマンションの部屋は閑散として何も無かったが、ここには白島の過去が詰まっている。彼がいない隙にこっそりと覗いてみるのがテルの密かな楽しみになりつつあった。
休養中は特にすることが無い。本棚には一通り目を通してしまったので、見ていないのは部屋の片隅にある机だけだ。ベッドから抜け出すと、何の気なしに引き出しを開けてみた。
そこには文房具が収められているだけで他に何もない。
順番に開け続けているとデスクの一番下の引き出しに黒い革張りの手帳のようなものが置いてあるのが目に止まった。スケジュール帳らしいが、予定は何も書き込まれておらず古いものだ。
パラパラと捲っていると後半のメモ欄のページにビッシリと文字が書き込まれていた。しかし日本語の読み書きを簡単にしか学んでいなかったテルには読めない漢字が多く解読することは難しい。どうやら何かの事件について書かれているようだ。
夢中になって眺めていると、手元から白い紙がハラリと足元へ落ちる。
二つ折りになっているそれを拾い上げると中には干からびてピッタリと張り付いた花が挟んであった。
「押し花…」
「お、目が覚めたかの」
突然部屋に入ってきた景造に声をかけられ慌てて手帳を戻したテルを見て彼は笑った。両手にはマグカップを持っている。
「ふぉっほ、構わんよ。調子はどうじゃ」
「平気だ」
「発作が起こることも無いし体もうまく再生しているようじゃ。大分落ち着いておるな」
景造はマグカップを相手へ渡すとベッドの上に腰掛けた。テルは手帳を膝に乗せて隣へ座る。
「白島は…」
「出掛けとるよ」
受け取ったカップからはココアの甘い香りがした。景造は室内を見回してから同じように手帳を一瞥する。
「昔はもっと色々あったんじゃが、あいつがここを出るときに処分してもうたんじゃな…」
私物を勝手に探っていたことを咎めるつもりは無いようなので、テルは少し甘えてみることにした。
「これはなんて書いてある…」
手帳のメモ欄のページを広げ相手に見せる。
景造は首から提げていた老眼鏡をかけると文字を読んで眉根を寄せた。
「……、これは拓人の両親が関わっていそうな、それらしい事件を探しておったんだろうなぁ」
「両親…」
白島は産まれた時からずっとこの闇医者と二人で暮らしていたという。テルはつい自分の両親のことを思い浮かべた。母親の方は今では殆ど顔も思い出せない。
「拓人の両親については謎が多くての。何も知らんのじゃ。拓人という名前もわしがつけた」
語り始めた優しき老人に続きを促す。白島の事を知れるまたとない機会だ。今は些細なことでも彼について知りたくてたまらなかった。知る事でお互いをフォローし合える、というのは白島自身が以前テルに対して言った言葉だった。
「もう随分昔じゃな…ある日夫婦が突然押し掛けてきてのう、妊婦だった嫁さんの方が破水して出産直前だった」
夫の方は彼女を託すと、赤子が産まれたら妻と一緒に引き取りに来ると言い残しすぐに出て行ってしまった。闇医者の所を頼ってくるくらいなので、不穏な事に関わっていたことには違いない。
しかしその時は急を要した為に事情が聞けなかった。
「無事に産まれたのは良いが、ちょっと目を離した隙に母親が部屋から忽然と居なくなってしもうたんじゃ。出口に向かって僅かに血痕が残っておったが、赤子を産んだばかりで動ける筈が無い。もしや旦那が連れ去ったのかと思うたが、赤子はわしの手元に置いてけぼりじゃ」
その時の情景を思い出し溜息をついた景造は飲み終えたカップをデスクの上に置いた。
「母親が自力で出て行ったとしたら…彼女には再生細胞があって、拓人の体質は遺伝的なものだと言える。あれから両親の出迎えをずっと待ってたがな…今日まで何も音沙汰なしじゃ」
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