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call (面会)
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家を出た白島は涼葉組の本社ビルへと向かった。監視係の案内のもと、ビルの地下へ通され厳重な警備が施してあるフロアに到着する。その階の一室にナルが監禁されていた。
あの日、八熊に捕えられた彼はここで身柄を拘束されている。
死角を無くす為に監視カメラが設置された檻のような空間の中で片脚を鎖に繋がれたナルが床の上に寝転がっていた。面会者に気付くと此方を向いて薄ら笑む。
白島は幽閉者と部屋を仕切るクリアガラスの前に立って話しかけた。
「元気そうで安心したぜ」
「…お前もな」
ゆっくりと体を起こしたナルの格好を見て彼の左手脚がもぎ取られている事に気がついた。
「お前、腕と脚、どうした」
「持って行かれたよ」
元々、ナルの左半身は義手と義足で補われていたのだ。仕込み武器が無い以上、自力での脱走は不可能だろう。彼は「間抜けな所を晒している、」と自嘲した。
「俺の手足がない理由、話したことあったか」
「いや…」
返事をしつつ白島は近くからパイプ椅子を引き寄せて座った。
「あの薬だよ。俺も飲まされてた。…対抗薬を手に入れたのはいいが、完全に副作用を打ち消すことができなくて、こちら側だけ成長せずに腐り落ちてしまった」
ナルの視線につられて彼の左半身を見た。左肩の付け根から下と、膝下が無い。
「三年飲み続けただけでこのザマさ。響介が助かる見込みはないね」
面会者の周囲を見渡したナルは笑みを消した。
「あいつはどうしてる」
「…休ませてるよ」
白島は煙草を咥え火をつけた。煙は天井に設置されている通気口に吸い込まれていく。
「テルは生かすぜ、何があってもな」
「…相変わらずだな」
決心した絶対的なニュアンスを含む発言に兄である男は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「それはそうと、八熊の旦那はお前をマフィアと交渉するダシに使うつもりだぜ。どうするよ?」
「どうするも何も…俺はネーロ一家を壊滅させて奴を殺すまで死ねないんでね。何があっても」
口元は笑っているが、ナルの漆黒の瞳は執念と怒りの色を映し鋭く前を見据えている。
その目は運び屋が初めて彼と会った時と変わらない。
「…俺から旦那に口添えしてやってもいいが」
「フッ、カラダ添えの間違いじゃないのか」
「うるせえよ」
舌打ちをして短くなったタバコを床へ落とすとじり、と踏みつけて揉み消した。
その吸殻に一瞥をくわえたナルは冗談めいた口調で首を傾げる。
「協力してくれるんだったら俺の手足を運んできてくれないか、ここに」
「ほぉ、運び屋として俺を雇うか?報酬は」
「情報だ。前に拓人が知りたがってたことだ」
その言葉に白島はピクリと眉をひそめた。ナルは表情を変えないまま一言付け加える。
「…お前の両親について」
思案の間、一瞬の沈黙があった。
「悪ィな、もう興味ねえんだ」
白島は椅子から立ち上がるとぐるりと室内を見回してからドアの方へ向いた。途中、足を止めた彼は振り返らずにナルに話しかけた。
「なあ…今回のことは勿論お前を誘き寄せる為だったんだが。…罠だと分かってたんだろ。何で、来たんだ」
此方からは見えないが、ガラスの向こうからチャリ、と鎖が鳴る金属音が小さく響いた。
「お前がいると思ったからだよ。拓人」
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