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nice timing(ピッタリだ)
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白島の攻撃を受け流すことは容易いが、アシバの中で一つの疑問が生まれる。——なぜ、自分の刀を使ってワイヤーを切らなかったか——
しかしそれより、怪我を負っているのにも関わらず俊敏に動ける相手に関心が向けられていた。
「そんなんじゃ当たらねえぜェ」
白島の持つ鎌がピンクの頭を挟むように狙うが、両腕を掴まれ妨げられる。アシバの嘲笑う瞳を見て低く呟いた。
「…俺じゃねえよ」
刹那、鎌の両端が届くはずだったアシバのこめかみを二つの銃口が捉える。
「!?」
———馬鹿な、予知できねェはずが…!
彼の背後に飛び上がっていたもう一つの影が容赦無くトリガーを引く。
着弾するまで0.013秒。
逃げ切るより速く弾は男の脳を貫いた。
「ボーンズショット」
白島と寸分狂わず重ね合わせた攻撃をアシバは予知する事ができなかった。否、直感的に予知はしていたが視覚情報で白島の攻撃だと思い込み、もう一人を認知する事ができなかった。
銃声が広い地下空間に轟き、膝をついた強奪屋は目を見開いたままドサリと地面へ倒れ力尽きた。桃色の髪の下から赤黒い血溜まりが溢れ出す。
アシバが息絶えたのを確認すると白島は脱力して鎌を離し左肩を庇った。慌てて駆け寄って来た険しい表情のテルに笑いかける。
「ナイスタイミングだ…テル…」
「白島…!怪我は」
「大丈夫、大したことねえよ」
どうやら出血は既に止まっているようで大事は無いらしい。
死体に視線を投げ少年は眉根を寄せた。
「…何故分かった?」
「ん?」
「この男の予知手段を」
「ああ…。アイツは俺の刀が鞘から抜けない事を知らない」
「!」
小さく息を吐いて続ける。白島はテルと同じ方向を見つめた。
「あの時…居合い斬りの仕草をした時、アイツは鎌で防ごうとせずに後ろへ下がった。もし俺の身体動作から瞬間予知をしていたのなら刀が抜けないことも察知できたはずだ。それだったら避ける必要は無いだろ?
でもアイツはそこまで分からなかった、代わりに鞘の「斬撃範囲」だけを直感的に予測し、そして刀を抜くと勘違いした。威力が未知数だったんだろう。だから避けたと考えた」
驚きの眼差しで見上げるテルに得意気に笑み返すが、すぐに口角をきつく結ぶ。
「でも…危ない賭けだった。今のが成功してなかったら、俺の刀が抜けない事がバレてた。そうしたら勝ち目は無かったかもな…」
白島は肩を押さえるのを止めて、携帯電話を取り出すととある番号へ発信した。
呼び出し音の後にこの場に似つかない程軽快な返事が受話器越しにまで響く。
『もしもーし!毎度ありがとうございます!千坂クリーニング店でぇす』
「…俺だ、白島だ」
『お?白島クン?久しぶり?!珍しいなあ電話してくるなんて。…で、どうしましょ?』
掃除屋の余りの声量に、気分の落ちていた運び屋は携帯を耳から少し離して話しかける。
「…6人くらいか…頼む」
『多ッ!揉め事でもあったん?』
「そんなんじゃねえよ…。お前、赤猫って、知ってるか」
電話の向こう側の男がう?んと唸る。白島には彼が腕を組んで首を傾げる仕草がありありと想像できた。
『赤猫…?なんや?聞いたことないなあ』
「そうか。ピンクの髪した派手な男が、その赤猫っていう組織の構成員らしい…。よく分からねえから処理する時には気をつけてくれ」
『りょーかい。料金お高くしておきますわ?ふふ…ほな、また後で。ありがとさん?』
通話を切るとアシバの遺体を仰向けにして身辺を探るが手がかりになりそうな物は出てこなかった。倉庫の中へ戻り依頼主に頼まれた荷物を回収する。
散らばった袋をトランクに戻す途中、幾つか敗れて中身が散乱した袋のなかから小さなメモリーチップが転がり出た。
「…これか」
番号とアルファベットの細かく刻まれたそれを指で摘まんで光に翳す。どうやら依頼主の最も重要な商品は無事だったらしい。チップを仕舞いトランクを持って立ち上がる。
指定時刻を大幅に過ぎた挙句、仕事は失敗だ。依頼人がお得意様だった事が唯一の救い…かもしれない。
「とんだ邪魔が入ったぜ…ったく」
髪を掻きながら先を歩く白島の後姿を眺めながらテルは先程、アシバを錯覚させたあの瞬間を思い出した。
あれは、自分が白島の動きに合わせたんじゃない。白島が己の技を予測してカバーしてくれた。
(…この男は一体どこまで考えているのだろう)
二人は急いでこの場を後にした。
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