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「なに…?死体が消えた…?」
電話は掃除屋からの報告だった。
『ゾンビやで?白島クン。ピンク髪の男はどこにも見つからへんかった。あの血溜まりは確かに致命傷やからなぁ、絶対死んでたはずやケド。まるで自分で歩いたみたいに血痕が非常階段の方まで続いとった。
途中で出血量が減って治っていくみたいに…おっと失礼。
誰かが僕らより先に回収したって見方が妥当やな?じゃあ、そういう事なんで五人分の料金の振込みはお願いな?』
死体が自分で歩ける筈が無い。キツネにでも摘ままれたような気分で運び屋達は顔を見合わせた。掃除屋の話は俄かに信じ難いが、白島にとって彼もまた昔馴染みであり信頼度は高い。
不審な点は幾つか残っているものの、遺体を回収したのは間違いなくアシバの同業者、赤猫だ。
携帯を閉じ、意を決するとクローゼットにかけてあったモッズコートを羽織った。
「テル、出掛けるぞ。桜野さんの所だ」
BAR blue springの扉は「close」の看板をぶら下げたまま開け放され、湿った地下に日光を取り入れているようだった。階段を降り、店に入るとバーテンダーが床にモップをかけていた。白島とテルの随分早い来店に驚きの眼差しで桜野は清掃作業を止め壁にモップを立て掛ける。
「どうしたんですか?」
「ちょっと、話しておきたいことがある…」
白島は後ろ手に静かに扉を締めると話し声が漏れないように鍵をかけた。その動作を見て、桜野の表情が硬くなる。彼はソファ席に座るように二人を促し、飲み物を用意する為にカウンターへ向かうが白島はそれを制して声を落とした。
「昨日、強奪屋が出た」
「!…本当ですか…?」
桜野は彼らの向い側の席へ腰を落ち着かせるも、険しい顔つきで身を乗り出す。
「おかげで荷物は台無し、旦那に散々ケツ叩かれまくって危うく掘られる所だったぞ…。次に失敗したらテルが売り飛ばされちまう」
少し大袈裟な手振りで説明する白島の隣に座る少年は真顔で頷く。
「一応確かめてくれるそうだが、旦那の所から情報は漏れてないらしい」
「涼葉組は…私達にとってもお得意様ですし、今回も一切ツールを変えていません。強奪屋が出ることは珍しくありませんが…涼葉組との取引を妨害されたとなると問題です…」
困惑する桜野の言葉を遮り、白島は首を左右に振った。
「いや、強奪屋の狙いは俺だった」
「まさか…」
「そうだ。俺自身がマークされている可能性の方が高い。だから、暫くの間仕事を休ませてくれ…」
運び屋の申し出に仲介屋は少しの間考え込んで口を紡ぐも、諦めたように力なく微笑んだ。
「…そういう事でしたら…致し方ありません。分かりました、私の方でも一度あらってみましょう」
「ああ、悪いな…。頼んだ」
「何かあれば直ぐにお知らせします。くれぐれも、あなたの身の安全を優先してください」
桜野に礼を言うと二人は店を後にし、廃ビル横にある駐車スペースまで戻ると車に乗り込んだ。テルが隣に座るのを待って白島は溜息と共にハンドルに両肘をついた。
「お前…どうするよ?」
少年はキッチリとシートベルトを締めてから運転席を見上げる。
「敵の正体がハッキリするまで暫く運び屋の仕事は休みだ。お前は他にやりたい事があるならそっちを優先すりゃあいい…。今日はどうすんの?目的地まで送るぞ」
「…白島は…?」
「俺?…買い物でもすっかなぁ。当分部屋に篭るかもしれねえし」
行きたい場所、やりたい事、探さなければならない事、確かにある。しかし彼を極力一人にしない方がいい、単純な興味に理屈をつけて少年は自身を納得させる。
足を浮かせぷらぷらとバタつかせたあと小さく返事をした。
「…同行する」
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