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秋の爽やかな風が頬を撫でる感覚に、うっすらと目を細めた。
つい先日までの暑さが嘘のように、湿気も少なく日差しも柔らかでとても過ごしやすい。
こんな日には外でストバスでもやりたいところだが、練習がないせっかくの休日と言う事もあり、高尾和成は恋人である緑間真太郎の部屋に遊びに来ていた。
静かな初秋の午後、ベッドを背もたれ代わりにした緑間に寄りかかりまったりとした時間を堪能する。
特になにをするわけでも無く、緑間の左手に自分の指を絡めたりして遊んでいると、そっと髪を梳くように撫でてくれる。それが堪らなくくすぐったくて、思わず肩を竦めた。
「くすぐってぇよ、真ちゃん」
首を傾けて見上げると、緑間が眼鏡の奥で柔らかく笑みを零した。
その表情にドキリとさせられ、自然と頬が熱くなる。
最近、緑間はよく笑うようになった。自分だけが知っている秘密の顔。
きっと学校中どこを探したって、緑間の笑顔を見たことがある奴なんていないだろう。
その笑顔を自分だけに向けてくれていると思うと、なんとなく優越感を感じる。
「……高尾」
「なに?」
くいと顎を持ち上げられて、どきりと胸が高鳴った。ゆっくりと近づいてくる唇を前に、そっと瞳を閉じる。
その時、甘い空気を漂わせていた部屋に携帯の着信音が鳴り響いた。
「出ないのかよ?」
高尾に促され、緑間はサイドテーブルに置いてあった携帯を忌々しげに睨みつけると通話ボタンを押し耳に当てた。
『緑間っち~! 元気っすかぁ?』
(うっわ、声でけぇ。俺にも丸聞こなんだけど)
やたら明るい声に顔を顰める緑間は今にも電話を切ってしまいそうな勢いだ。
「なんの用なのだよ」
『いやぁ今日は久々に青峰っち達と遊んでて、折角だから緑間っちも誘おうって話になったんっすよ。てか、もう緑間っちの家の近くまで来ちゃってるんすけどね。だから、今から遊びに行ってもいいっすか?』
「何? いや、今日は……」
用事があるからダメだと言おうとしたその時、高尾がくいっと緑間の袖を引いた。
「俺の事は気にしなくていいからさ、一緒に遊べばいいじゃん」
「なんだと?」
「俺も、真ちゃんの同中の奴と遊んでみたいし!」
ニッと屈託のない笑みを浮かべられたら、緑間は逆らえない。小さく息を吐くと「少しだけならいいのだよ」と、返事をした。
電話の向こうでヤッター! と、言う声が響き、眼鏡を押し上げると電話を切った。
「本当にいいのか? 気を遣っているのなら……」
「別に気なんか遣ってねぇよ。ただ、真ちゃんの中学時代のダチに会ってみたくなっただけ。よく考えたら俺、ちゃんと話した事あんの黒子だけだし」
自分が知っている緑間は高校に入ってからだ。自分の知らない彼の一面を知るチャンスじゃないか!
楽しみだなぁと素直に喜ぶ高尾とは対照的に緑間は複雑そうな顔をしている。
せっかくの二人っきりの時間を邪魔されたのだから無理もないだろう。
しばらくして、ぴんぽーんと言うチャイムが鳴り響いた。
緑間が渋々玄関に向かうと、高尾も後を追うようについてくる。
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