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甘えんぼ side水音
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司さん、考え込んじゃった…。
やっぱりダメだったかな?
でも、何度もギューしてくれるし、なんか気持ちよかったからお返ししようと思ったんだけど…。
イタズラが過ぎちゃったかな…?
あ…司さんから何かトク、トク、トクって聞こえる。何の音だろう? もっと聞きたいな…。
ためしに耳をグリグリと司さんのセーターに押し付けてみる。
トクン、トクン、トクン、トクン…。
聞こえる。たしかに聞こえる。
むぅと息を吐き出しながら全身の力を抜くと、司さんがポンポンと頭を撫でてくれた。
司さんはよくこれをする。最初はビックリしちゃったけど、なんだか頭がぽわーってなってボクは黙ってそれを受け止めていた。
司さんはあたたかい。手も身体も…とにかく全部が。
でも、ボクは冷たい。自分の手を自分で握ってみても、司さんのようになったことが一度もない。
それどころか、どこか哀しい気持ちになって、声を出さずに泣いてしまった夜もあった。
あの時だ。
おうちを無くしたボクは、初めて見る外の空気に怯えて、どこかもわからない道の片隅に腰を下ろした。
そこから見える風景は道を通り過ぎていく大人たちにとっては日常の風景のはずなのに、ボクにとっては非日常で。
その時、はっきりとボクは『家をなくした』ということが自覚できた。
あの家から出されたときは『勝手にしろ』という大人たちの言葉に、ボクは飛び上がりたいほど嬉しかった。
教科書に載っていた小説やエッセイの中の世界の中に自分がいるかと思うと、とてつもない開放感を覚えた。
しばらくは地理も何も分からない道を道の続くままに歩いて回った。
最初に見たのはパン屋さん、それからコンビニ、ファミレス、靴屋さん、レンタルショップ屋さん…名前の分からないお店も建物もあった。
だけど、色とりどりのお店や建物はボクにとっては初めて見るものばかりで、ボクは踊るように通りを歩き回った。
ふと気がつくと、人通りが急に多くなった気がしてボクは足を止めた。
規則正しく並んだ木々をはさむように建っているのは高層ビルで、見渡す限りビルだらけだった。
それをジッと見上げていると、ボクの肩が他の人の肩にぶつかった。あわててその人を見ると、ちょうど目が合ってギロリと睨まれてしまった。
ボクはビックリして、思わず心の中で『ごめんなさい』を言いながらあさっての方角に転がるように走った。
それからもボクは謝りきれないほど沢山の人にぶつかったり、足を踏んでしまったりしたけど、ボクは怖くて怖くて足を止めずに走り続けた。
やがて景色は一変して、一戸建ての建物が並ぶ通りに出た。
さっきとはうってかわって、静まりかえって空を飛ぶ名前の知らない黒い鳥の鳴く声だけが辺りを占めていた。
なんだかボクは不安になって、歩くスピードが自然と遅くなった。
ふと見やれば、家と家の間に公園があった。たぶん、サイズは小さい方だろうなと思いながら、ボクは少し迷ってから公園に入った。
名前も遊び方も知らない遊具が窮屈そうに2つほど並ぶ外れに、忘れられたように2人用のベンチがあった。
そこはちょうど木の陰になっていて、なんだかあの家を思い出させた。
でも、煌々と照らされる遊具にはなんだか近づきにくくて、汚いベンチの表面を軽く手で払ってから腰を下ろした。
すると、ドッと疲れを感じて、ボクは自分でも分からないうちに眠っていた。
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