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怒りの咆哮
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この場を一刀両断する一言に、俺のなかで別の緊張がほとばしった。
声の主は懸命に虎の前におどりでた。
「ダメです! 司先輩!
そいつに近づいちゃ…」
そこで俺はハッとした。
司先輩のふくらはぎから血が流れ出ていた。
思わず顔をしかめてしまいそうなその傷を負いながらも、ふるえる足で苦しむ青史先輩をかばっている。
青史先輩の脇腹部分の服はかなり血を吸ってあざやかな赤になっていた。
「青史から離れろ!
どうせやるなら俺をやれ!!」
虎は司先輩を睨み返しながら、その美しい体躯をしならせるように司先輩に近づいていく。
たくましい前足には2人の血が付着していた。
たった数秒のはずのその時間が、恐ろしくて仕方がなかった。
ゆっくりと近づいてくる虎に、司先輩が右手を出して軽く構えた。
セリフとは逆に、その手のふるえが止まることはない。
そしてついに、司先輩の手の届く範囲にまで来ると、なぜか虎は襲いかかるのをやめ、グルルルルと唸り始めた。
「え…」
虎は司先輩の顔をちらりと見た後、頭を下げ、その鋭い牙を司先輩の負傷した方の足に向けた。
「や、やめ…やめて…」
その次の瞬間を見たくなくて、俺はギュッと目をつむった。
どさっと尻もちをつく音が聞こえた。
だが、5秒、10秒たっても、司先輩は悲鳴をあげない。
グルル、グルルといううなり声が聞こえるだけだった。
「ヒャッ!」
小さな悲鳴がようやく聞こえて、俺は薄く目を開けた。
「は…?」
見ると、さっきまでとてつもない殺気を放っていた虎が司先輩の足を労わるように舐めていたのだ。
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