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虎の正体
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「虎ってあの虎か?」
いつのまにか消えてしまっていたまるで深雪のような虎。
たしかに不思議には思ってはいたが、司のことで頭がいっぱいだった。
「はい。あの、銀色の毛並みの虎のことです」
藤本の表情にふざけた様子はまったく感じられない。神妙な顔で、声をひそめた。
「俺、もしかしたらその虎の正体を知ってるかもしれなくて、それで俺の予測が当たっているなら、おそらく…」
そこまで言って、藤本はパッと口をつぐんだ。
給湯室の入り口に影が伸びたからだ。
影は1つ。
背格好から予想するに男性。
俺と藤本はほぼ同時に顔を見合わせ、黙って影の登場を待った。
「誰かいるんですか?」
驚いた表情で顔を出したのは司でも凛太朗でもなかった。
最近研修に来ている新人の1人だった。
俺は思わず胸を撫で下ろした。
ただでさえ複雑なのにさらに司を混乱させたくはない。
もうそのときには藤本の顔は会社用の顔に戻っていた。
まったく掴めない男だ。
「藤本ですよ。何かありましたか?」
「え! あ、ぶ、部長でしたか!
失礼しました! えと、山口さんにお電話が…」
「分かった。すぐ行く。ありがとう」
チラリと腕時計を見てから俺は給湯室を出た。
少し後ろ髪が引かれる思いだったが、藤本を振り返ることは、しなかった。
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