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虎の正体
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事件は、俺がまだ仕事中の時間に起きた。
ちょうど定時から3時間ほど経ち、周りにいる社員が俺のみになったころに、狙ったようにその電話はかかってきた。
俺は勤務時間が終わっても残務に追われ、その日1日の疲労のピークを迎えていた。
朝は誰よりも早く出勤し、俺を慕って親しげに話しかけてくる社員にも、ガチガチに緊張している新米たちにも、全て怠らず紳士的に接した。
そのおかげで今のところ俺への周りからの信頼度は高いが、やはり慣れないものだった。
どれだけ完璧に演じられても、こんな1日の終わりには気を抜かずにはいられない。
「はぁ…」
これって、自分で自分を追いつめていることになるんだろうか…
もしそうだとしたら、俺って本当に不器用でバカな男だと思う。
そうやって開き直るように自分を心の中で笑っていたら、シンと静まるフロアに突然バイブオンが響いた。
こんな時間にかかってきたのはもちろん仕事用のケータイではなくプライベート用のケータイ。
ため息をつきながらケータイを取り出す。
画面に表示されたのは”ウラノ”という文字。
その三文字を三秒だけ見つめてから、出ることなくブチッと切る。
するとものの数秒もかからないうちにまたかかってきた。
「ったく、アイツは…」
一度イスから立ち上がって振り返って俺がさっきまで背中を向けていた窓のすぐ下を覗き込むと、
思ったとおりウラノがこちらに向かってブンブンと両手を振って何かを言っていた。
思わず首を引っ込める。
なんでかって、俺の方を見上げているのはウラノだけじゃなかったからだ。
見知らぬ社員や通りがかりの人が何事かとこちらを見ている。
その間にもケータイは鳴り止むことはない。
「あー! うっとおしい!!」
何もかも面倒くさくなって、俺は誰もいないのをいいことに1人嘆いた。
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