アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
”ウラノ”
-
満面の笑みを浮かべるウラノの顔には少しも邪気みたいなものは感じられない。
だけど、その裏にあるものを、俺は知っている。
「…ウラノ」
こうやってウラノが満面の笑みをキレイに浮かべれば浮かべられるほど、ことは深刻だと。
ウラノがン?と首をかしげ、俺を見つめた。
俺はどう言い出すべきか迷いながら、食べ終わった食器を洗い場に運ぶ。
静かで繊細な、皿と皿がぶつかってなる音が響く。
部屋の空気はさっきと打って変わって重くて、俺はその沈黙にジッと耐えながらウラノの出方を待った。
「…あのね、トウちゃん」
「………」
「僕、…仕事で失敗しちゃったんだぁ」
「…親父か?」
「ううん、親父さんのことは関係ないの。
僕の、気持ちの問題っていうか…責任っていうかね?」
音が鳴り止む。
「………」
黙って振り返ると、ウラノは一口だけ食べたプリンを置き去りに、クッションを抱きしめてうつむいていた。
「…話せよ」
「え?」
「俺が、必要なんだろ?」
するとウラノが顔をあげ、小さくハハッと笑った。
「ほんと、優しいね? トウちゃん♬
さすがトウちゃんなだけあるわー」
「………」
「ごめんってば。そんな顔しないでよ」
「………」
「大丈夫だから! 僕、つよくなったし、トウちゃんに迷惑かけたくない」
「………」
「でも、ありがと。トウちゃん大好き♬」
ヘラッと笑ってみせるウラノに、俺は顔をしかめた。
「ったく…おまえはめんどくせーんだよ」
「あはは♬ ほんと、そのとおりだよ」
「茶化すんじゃねー。イミをはき違えるな。
俺の前でそんな顔晒しといて大丈夫とか何様だよ。あ?」
ウラノは一瞬キョトンとして、意味がわかったらしくまた顔をクッションにうずめた。
泣き虫は治らない。
でもコイツは昔とちがって簡単に泣き顔を他人に見せなくなった。
それは俺も例外ではない。
ある日を境に、ウラノはへらへらとした態度をとって本心を見せなくなった。
イイ意味でもワルイ意味でも、コイツは俺から独り立ちした。
だけど、俺は本当はコイツが心配で心配でならない。
以前はたまに呼んでいたウラノの下の名前も呼ばせてくれなかった。
俺がなにかあったのかと何度も聞いても、なんでもないととぼけるだけだった。
「…今日はね、ほんとはトウちゃんにお願いしにきたんだー」
「なんだよ?」
「まちで見かけない動物を見たら、僕に知らせてほしいんだ♬
うちの試験体を部下が逃がしたらしくてさ。
部下も試験体も僕が本部から帰ってきたらいなかったんだ♬
僕、びっくりだよーハハッ!」
試験体…?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
171 / 431