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月だけが見ていた(宮高)
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「なぁ真ちゃん。もう直ぐ夕飯の時間だし、そろそろ上がろうぜ」
「今日の分のノルマがまだ終わっていないのだよ。オレの事は気にせず先に上がっていろ」
一人黙々と自主練を続ける緑間に声を掛けると、そんな返事が返ってくる。
コレが普段の練習なら最後まで付き合ってやると言ってやりたいところだが、今は合宿中。普段の何倍もハードな練習をしている為正直言って身体がキツい。
緑間一人を先に残して戻る事に多少の心苦しさは残るものの、彼のストイックさについていけない。
「じゃーお先な、真ちゃんも早めに切り上げろよ。あんま無理すると明日に響くぞ」
「あぁ。わかっているのだよ」
まぁ、緑間の事だからそこまで無茶な事はしないだろう。
そんな事を思いながら、ベンチ脇に置いていた携帯をポケットに突っ込み、肩に下げたタオルで汗を拭きながら外に出る。
蒸し風呂状態だった体育館から一歩外へ出ると夜風が頬を撫でた。
生温い風でも今は心地よく感じて高尾はうーんと伸びを一つ。
体育館に入る前、少し雨が降っていたようだったが今は晴れて星の瞬きが頭上に広がっている。
「おい、どこへ行くんだ」
「え?」
民宿に向かいかけた高尾を呼び止めたのは宮地だった。着替えてきたのか白いシャツが夜目にでもはっきりとわかる。
「どーしたんっすか、宮地さん。散歩?」
「バーカ! 何寝ぼけた事言ってんだ。お前を迎えに来てやったに決まってんだろうが」
軽くおでこを小突かれてドキッとした。周囲にはまだ秘密にしているが、二人はれっきとした恋人同士の間柄。
本当は四六時中一緒に居たいのだけれど、仲間たちに気付かれては色々面倒だからと自由時間以外は極力一緒になるのを控えている。
「たく、せっかくのフリーなのに緑間と一緒に居るとか有り得ねぇだろ」
「オレもまだまだ練習足りないんっすよ。つーか、そんなヤキモチ妬くなら木村さんと一緒に先に上がらずに残れば良かったじゃないっすか」
「あ? 誰がヤキモチなんて妬くんだよ? 変な事言ってっと殴るぞ」
ガシッと肩を引き寄せられ、腕が回ったと思ったら少し強めにおでこをピンと弾かれた。
「いって~っ。暴力反対!」
「こんなもん暴力のうちに入らねぇだろ」
「俺のデコ陥没したら宮地さんに責任取ってもらいますから」
「ははっ、いいぜ。セキニン取って俺が嫁にもらってやるよ」
「……ッ」
耳元で響く甘い囁き声に、高尾は何も言えなくなってしまう。
心臓がどきどきと跳ね回って五月蠅い。宮地と付き合い始めて数週間、二人きりの時だけに見せる甘い態度に振り回されっぱなしだ。
「い、いきなりそんな事言うの反則……っ」
思わず赤くなって俯いた高尾を見て、宮地は小さく笑みを零した。
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