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全てのハジマリ
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一日の終わりを鳴らすチャイムの音が、学校中に響き渡る。
そのチャイムの音と共に、先程までは静かだった教室が騒ぎ始めた。
俺はいつもの光景の、耳に響く沢山の雑音に小さくため息をつく。
チャイムの音、椅子を引く音、教室を走る足音、クラスメートが発する様々な会話が耳に響く。
(……うるさいな…)
なるべく早くここを出たい。
俺は顔をしかめない様に気を付けながら、鞄に教科書等を手早くしまっていった。
「日向様っ、あの、ちょっといいですか?」
全てを鞄にしまい、やっとこの煩い場所から出られると思った瞬間、声をかけられた。
俺は内心舌打ちをしながら、でも表情(かお)には優しい微笑をつくり、目の前にいるクラスメート、元(はじめ) 宏人(ひろと)に応えた。
「はい、なんでしょうか?」
「あ、あの、日向様っ。今日、部活は出られますかっ?出られるなら、部室までご一緒させていただきたくてっ」
恥かしいのか何なんか分からないが顔を真っ赤にした元は、もじもじとしながら俺に話しかけてきた。
それは一言、男のくせに気持ち悪いという物であったが、俺は済まなそうな表情を作り、謝る。
「…済みません元君。今日はちょっと先約があって…」
そう、今日は呼び出されているのだ。あいつに。
いつもの俺なら元も部活もめんどくさいと思うのだが、今日に限ってはあいつの所よりこちらに行きたいと切に思った。
けれど俺に行かないという選択肢は…無い
「そうですか……」
しょぼーんと、効果音が聞こえて来るのでは無いかと思う程に落ち込む元。
その光景に、やっぱりどちらも同じ位めんどくさいなと思ったのはここだけの話だ。
「せっかく誘って下さったのに、本当に済みません。けれどもしかしたら用事が早く終わるかも知れないんです。ですので間に合うようでしたらそちらに参加させてもらっても良いでしょうか?」
「は、はいっ。お待ちしてますっ!!」
こう言えば、元は花が咲くかの様に顔を綻ばせ、嬉しそうに俺を見つめた。
まぁ元には悪いが、多分行かないだろうな。
「日向様、あのっ…」
やっと元に開放され廊下に出てほっと一息吐く俺に、誰かが俺に後ろから声をかけた。
またかと思いつつも振り返れば、そこには赤い顔で俯いている青年がいる。
声をかけてきた青年は背が高い為、俺は見上げる様にして声をかけた。
「えと、君は確かB組の…園芸部の新山(にいやま)君ですね?」
新山は俯いている為顔が良くは見えなかったが、記憶を探ればいつも外でしゃがみ込んでいる姿を思い出す。
「ぼ、僕の事知ってるんですか!?」
すると新山は、驚きのあまり声を上げる。
まぁ、会話もした事の無い人間が自分を知っていると分かれば驚くのも無理は無い。
一歩違った見方で見れば、新山は俺をストーカーと思うかも知れないな。
といより、俺が新山の立場だったら思うだろう…
俺はストーカー説を否定しようと思い、微笑んだ。
「放課後に花壇や薔薇園の手入れをしてくれていますよね。それも部活が無い日でも雨が降っている日でも関係なく、一人で一生懸命に」
「えっ……――」
「去年は少し病気になっていて枯れかけていた薔薇もあったのですが、今年は新山君が細かい所まで手入れしてくれているので、とても綺麗に咲いていて…僕は良く薔薇園のベンチで本を読んでいるので、すぐに気が付いたんです」
本を読んでいる時にたまたま見たのだ、別にあんただから見ていた訳では無いと、遠回しに伝えておく。
これでストーカーだとは思われないだろう。
「……………」
「新山君?」
しかし返答が無い。
「あの…新山君?」
俺は俯く新山の顔を見ようと顔をのぞみ込み、目が合ったので微笑んでおく
「………!!!!」
すると新山は、あんたどんだけ反射神経が良いのだッ!?と思う程のスピードでズズズッと数歩後ろに下がった。
「あっ、ご。ごめんっ……」
「いえこちらこそ、済みません…」
あたふたとしながら謝る新山に合わせ俺も謝る。
(なんのコントだよ……)
本当にめんどくさい。
俺は今日何度目になるかも分からないため息を小さく付いた。
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