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全てのハジマリ
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ガチャンと、扉が閉まる音が聞こえ、俺は思わず扉を振り返った。
「どうしたの?」
「…いえ、何でもありません」
(…聞かなくても分かっているくせに)
俺が扉を振り返った意味に気が付いてるであろう若槻は、俺の表情を見て楽しそうに笑う。
俺は扉から目線を若槻に戻すと、強張る表情(かお)に無理やり微笑みをつくった。
「ここまで来るの、大丈夫だった?迷わなかった?」
「はい。若槻先輩が教えて下さったので、迷いませんでした」
「そう、良かった~。生徒会室が何処にあるか知らないって葵が言ってたから心配だったんだ。迎えに行こうかとも思ったんだけど、真人(まさと)に今から行ったら入れ違いになるから止めろって言われてさぁ」
「心配して下さって、ありがとうございます」
どうやら今日の若槻は機嫌が良いみたいだ。
俺の手を嬉しそうに掴むその姿は、まるで玩具(おもちゃ)を見てはしゃぐ子供の様である。
それもそれでめんどくさいのだが、機嫌が悪い時の若槻を相手にするよりは数倍良い。
俺の言葉ににっこりとさらに笑みを深めた若槻が、そうだ、と声をあげる。
「あぁ、そうだ奏。若槻なんてわざわざ言わなくていいよ、いつもみたいに朋宏って呼んでくれればいいからっ」
「…えっと…」
(いつみたいって…いつも呼んでないんだが…)
普段など間違ってでも朋宏なんて呼んでもいないのだが…若槻的には日向葵をそういう風にしたいらしい。
「ですが…ここでは…」
「朋宏だよ、それ以外では返事しないからね」
【命令だよ】
音には、言葉には出さず、若槻は俺に言った。
「…分かりました。朋宏先輩」
俺はそれを感じ取ると、若槻の命令に素直に従った。
「じゃぁ立ち話もなんだから行こうか?奏に役員を紹介したいんだ」
俺から望み通りの言葉を聞けたからか、若槻はにっこりと笑いながら俺の手を引っ張り奥へと進んで行く。
「あの、朋宏先輩。どうして僕を呼んだんですか?」
もしかしたら今の若槻は機嫌が良いから何か言ってくれるかも知れない。そう思って聞いてみる。
けれど若槻は俺の問いに無言で微笑むと、何も言わず俺の手を引っ張った。
?
逆らわずに若槻に連れられるまま部屋へ入ると、そこはどこぞの有名ホテルのスイートルームですか!?とでも叫びたくなるような豪華な部屋だった。
(こんな部屋いらないだろう…)
俺は内心呆れながら、部屋を見渡した。
金持ちの馬鹿息子が通う譁久夜高校はやはり生徒(きゃく)が生徒(きゃく)なので、学校全体が豪華である。
それはどれも庶民にとっては驚く様な物ばかりで、入学した頃教室や寮やらの異常な豪華さに金持ちの考えは庶民には理解出来無いなんて思ったものだが…この部屋はさらにその上を行く
まぁ、金持ちが金をばら撒いているおかげで金が回り、庶民の生活が潤っているのだから文句は言えないが…庶民の俺から見たらやはり、無駄としか言い様が無いのには変わりはない。
「みんなー、連れてきたよっ!!」
「失礼致します。お忙しい所、お邪魔して済みません」
若槻の声に一斉にこちらに向いた視線に、俺は軽く頭を下げた。
見れば無駄に豪華で馬鹿でかい生徒会室に居たのは、たった三名。
その光景にこの部屋は無駄だと改めて思ったが、俺はくだらない考えを捨てながら中にいた三名に軽く微笑んだ。
「あれ、日向じゃ~ん」
するとソファに座っていた内の一人が俺に気が付いて声を上げる
そう言えばこいつは生徒会役員だったと俺は情報を思い出しながら、けれどここに彼がいて驚いたとでも言う様な表情で彼の名を呼んだ。
「あれ、凪世(ながせ)君?」
「そ~で~す。数学苦手なくせに生徒会会計やってる凪世で~す」
凪世は座っていたソファから立ち上げり、へらへらと笑いながら俺らに近づいてきた。
「なんだ~若(わか)の紹介したい子って日向の事だったんだ~」
「あ、そっか、凪世(ながせ)は奏と同じクラスだっけ?」
「そうっすよ~、同じ二―Sっ!!」
ブイッ、とピースサインをしながら笑う凪世に、若槻はにやりと笑う。
「そっか、凪世も一応S組だっていうのを忘れてたよ」
「そうっすよ、一応俺もS組…ってひど~い若っ、俺こう見えても学年ツーですよ~?」
まぁ、凪世の容姿を見れば確かにそう思うが。
「あぁ、そういえばそうだったね(笑)」
「(笑)ってなんですか!!ひどいっ!!」
先程も言ったが、この譁久夜高校は金持ちの馬鹿息子が通う金持ち学校である。
まぁ中には俺の様な奨学生として入学した庶民や、美術や体育等で呼ばれた庶民等もいるが、それが少数であるのはわざわざ言わなくても分かるだろう。
その為、生徒の殆どがどこかのご子息様であるこの譁久夜高校は『次世代の若者を育成し、社会への貢献を~(長ったらしいので以下略)』というのを信念としている為、意外にもシビアな所がある。
その一つに成績だ。
成績や素行が良い者に対しては様々な特権が与えられるが、逆に悪い者に対してはそれに見合った対応がされるのである
それが明確に分かるのは、クラスである
普通科は成績順にクラス分けがされており上からS組、A組、B組、C組と分けられている。(その他にDepartment of At(美術科)とDepartment Physical Education(体育科)をあわせたD組がある)
その為、譁久夜高校のS組と言うと、優秀な生徒と言う分類に入るのだった。
(ちなみに二学年の成績は、凪世が学年二位、俺が学年一位である)
凪世自らが言う通り、学年二位、さらに生徒会の役員をしているという時点で彼は優秀な部類に入るのだが…きっと彼を初めて見た者は、一目でS組とは思わないだろう。
なにせ彼、凪世伶(れい)は模範となるべき筈の生徒会役員の癖に、ちゃらいのだ。
まぁ、この学校は『次世代の若者を育成し、社会への貢献を~(長ったらしいので以下略)』というのを信念としているくせに、何故か頭髪や服装についての校則は無い為問題は無いので、余計なお世話かも知れないが。
「あはは、世も末だねぇ。というより凪世、その若っていう呼び名いい加減止めてくれるかな?悪いけど僕の家は裏の世界に住んでる訳じゃないんだから。それに俺は先輩だよ。せめて先輩か副会長って呼びなよ」
「え~、いいじゃないっすか、別に。ただ副会長の苗字を略しているだけっすよ?それにぃ~」
「それに…何さ?」
含みを響かせる凪世の言葉に、若槻は若干苛立った声で答えを聞き返した。
その様子に凪世はクスッと小さく笑ったが、視線を俺に戻して逆に若槻に聞き返した。
「それより若副会長、どうして日向が生徒会室(ここに)来てるんですか~?一応一般の生徒は生徒会室(ここ)への入室を禁じられてるはずですけど~?」
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