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全てのハジマリ
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…なにあの有名な某駄菓子と同じ名前のあだ名は。
若槻の若っていう呼び方も同情に値するが、このよっちゃんと呼ばれる人の方が可哀相だ。
「あの、凪世君?よっちゃんって…誰の事なのですか?」
「ん?あぁ、よっちゃんっていうのはね~」
その時、あの豪華な扉からガチャっと音が鳴る。
誰かと思い顔を向けてみれば、そこに現れたのは見知った人。
「あ、帰ってきたね」
両手で抱えている大量の書類のせいで体を滑り込ませる様にして室内に入ってきた藍原は、嬉しそうに声を上げる若槻に目を向け、応える様に小さく頭を下げた。
「只今戻りました。明宏様」
「うん、お帰り」
藍原が頭を上げた時、僕を見て小さく眉を顰(しか)めた様に見えたのは、きっと気のせいでは無いのだろう。
そんなに俺の存在が嫌か。
まぁ俺も同じ気持ちですけどね。
なんてセリフを思っていても言える訳も無く、俺は会えて嬉しい表情を作り、軽く頭を下げた。
「お、お帰りなさいですっ、藍原先輩」
「…あぁ」
藍原の声に仲原が慌てて声をかけ大量にある生類を預かろう動いたが、藍原は大丈夫だと仲原に声をかけ、手に持っていた書類を机に置いた。
「お疲れ真人。会議はどうだった?」
「数名ほど騒ぎ立てた者もいましたが、最終的には特に問題も無く終わりました」
「そっか、じゃぁあのまま進められるね。」
ありがと、とにっこりと笑う若槻に藍原は頷くと、今度は先程とは違いちゃんと俺に目線を向けてきた。
「…久し振りだな、奏」
「はい、お久し振りです。藍原先輩」
「………」
「………」
はい、会話終了。
ったく、そんなに会話したくないなら、態々してこないで欲しいよ。こっちだって話をするのも、話を続けるのも面倒くさいんだから。
けどフォローするのも面倒くさいので、困った風に微笑んでおく。
「そうそう。知ってると思うけど、僕が生徒会副会長やってて、副会長補佐を真人がやってるよ」
一応紹介しておくと言う若槻。勿論その情報は知ってるので、はい、と素直に頷いておく。
「ねぇ、真人。義家は一緒じゃないの?」
「すぐそこで福島(ふくじま)先生に会いまして、新歓について話していました。ですので、すぐ来られると思います」
「そっか」
「ふっくーって話が無駄に長いからヤダよね~よっしーも大変だ~」
にゃははと笑いながら、凪世は慣れた手つきで書類にサインをしている。
…っていかちょっと待て。若槻の言う義家って確か生徒会長の名前じゃなかったか?
っていう事はもしかして、凪世の言うよっしーって…
「戻ったぞ」
その時、ガチャっと扉が開く音と同時に、いつもは遠くからしか見ない人物が現れた。
この学園の者なら誰もが知っているその人物。譁久夜高等学校生徒会生徒会長、義家健吾が。
「あっ、帰ってきたね~」
ナイスタイミング~!なんて言いながら、凪世は扉へと顔を向けると大きく手を振り、にっこりと笑う。
「おっかえりーダーリン!遅かったわね~」
「五月蠅いぞ、凪世」
「あははは、よっちゃんが怒った~」
それでもめげずにソファから投げキッスを贈る凪世に、生徒会長は小さくため息をついたが、けれど投げキッスに対しては反応を返さず自分の机に向かって行く。
っていうか、凪世のよっちゃん呼びはいいんですか?と聞きたくなってしまうのですが。
なんて思っていたら、生徒会長と目線が合った。
一応と思って頭を下げれば、生徒会長はすぐさま顔を顰める。まぁ、正しい反応だと思います。
「…おい、こいつは誰だ。ここは一般の生徒は立ち入り禁止だぞ」
と言って、生徒会長は凪世を睨んだ。その視線に迷いが無かったのは凪世の日頃の行いからくるものなのだろう。
「へっ?俺なの??そこで見るのって俺なの!?」
「お前以外いないだろ。」
「俺じゃないよ~!!もぅ、ひどいよっちゃんったら!!俺を真っ先に疑うなんて!!」
生徒会長の睨みに、凪世は拗ねた風に口を尖らす。
「お前には前科があるだろ」
「うぅ、確かに前に連れ込んだ時はあったけど~今回は俺じゃないですよ~」
凪世は頬を膨らませ自分でぷんぷんと言いながらわざとらしく拗ねる。
っていうか、高二にの男子がそんな事して恥ずかしくないのだろうか。可愛い女子がやるならともかく、むさい男がやっていたら普通きもいだけだ。
勿論そんなふざけた凪世の返答に、生徒会長は眉間にしわを寄せる。
「じゃぁ、だれ…」
「あぁ、僕だよ、僕。」
すると若槻は何でも無い事かの様にさらりと、そしてとても良い笑顔で手を挙げた。
「…………」
「僕が連れてきたんだ」
若槻は黙り込む生徒会長の表情(かお)を楽しむかの様にくすりと笑った。
暫くの間、生徒会長はにこやかに笑う若槻を睨みつけていたが、諦めたのかため息をつくと腕を組んだ。
「…なんの為に?」
「義家の補佐にと思って」
「…………」
けれど、生徒会長は若槻の考えも何となくは分かっていたらしい。
今度は小さくため息をつくと、何も言わずに自分の机に向かい、椅子に座った。
なんか俺のせいではないのだが、申し訳ないな。
まぁ、その話より重大な事を聞いてしまった。
(補佐、ねぇ……)
生徒会室にまで呼び出された時点で若槻は俺になにかめんどくさい事をやらせようとしているのだろうなとは思っていたが、まさかの生徒会長補佐。
確かに現生徒会長には凪世と同じく補佐がいないという事は有名なので俺も知っていたが…5月半ばというこの中途半端なこの時期に、若槻はわざわざ俺に補佐をやらせようとしているのかが全く分からない。
ちょっとした確認の為にちらりと藍原を見れば、特に驚いた様子も無い。
どうやら藍原には事前に若槻からなんかしらの計画を聞かされているのだろう。
(…最悪)
っていうか俺にも事前に知らせろよ、馬鹿若槻。
……なぁんて、本人には口が裂けても言えないけど。
「…書記組。悪いがコーヒーを淹れてくれないか?」
なんて心の内で悪態をついていたら、生徒会長が書記組にドリンクをオーダーしていた。
「了解っす」
「わ、分かりました」
その言葉を聞いて、当たり前の様にソファから立ち上がる二人。どうやら生徒会では書記組が飲み物を淹れる係りの様だ。
「あ、ねぇ、俺ココアがいい~」
そんな二人に凪世がわざわざ違う物を注文する。しかもインスタントと思いきや「鍋で作るやつ?」とつけたした。確かにそちらの方が美味しいが、そんなめんどくさい物、後輩に頼まないで自分で作るべきだと思う。
「え~一緒でいいじゃないですか」
案の定、笹本が文句をいう(当たり前だ)。
それにえーと拗ねた風に凪世は声を挙げたが、渋々ながら分かったよぉと呟いた。
「じゃぁ、間をとってカフェモカで良いよ~」
「もっとメンドくさいっすよ」
コントみたいなやり取りをしていた。ちょっと面白い。
「あ、あの、日向先輩っ」
するといつの間にか、仲原が俺の傍にちょこんと立っていた。
「はい、なんでしょう?」
「日向先輩は、何を飲みますか?」
コーヒー、紅茶など、基本的な物はそろっているとの事。
「ありがとうございます。でも私は大丈夫です。」
仲原がおどおどしながら俺に飲み物を聞いてくれたが、遠慮しておいた。
一応若槻には招待されている身だが、生徒会長の反応を見れば俺は招かれざる客である事は間違いない。
そんな俺が図々しく飲み物を飲むのは、暗に長居するぞと言っていると同じである。けど、
「ありがとう、ゆー君。じゃぁ、僕と真人と奏には紅茶をお願いできるかな?」
「は、はいっ!!」
若槻は気にせず仲原に紅茶を頼んだ。
まぁ、こちらは良いのかも知れない。だって若槻に頼まれた仲原は嬉しそうにはにかむと、ぱたぱたとキッチンへと駆けて行った。
(ほんと、かわいいーなー)
…えっと、棒読みだった?
けど棒読み(それ)は無視(スルー)してくれると嬉しいです。
その時、ふと視線を感じたので振り向いてみると、生徒会長と目線があった。
どうやら俺を観察、いや見ていたようだ。
「あ、済みません、お茶まで頂いてしまって…」
なので一応謝っておいた。まぁ、俺はいらないと言ったし、頼んだのは若槻なのだが、一応ね。
「いや、客に茶の一杯も出さない方がおかしいだろう。それより補佐の話なのだが…」
生徒会長は気にするなと首を振る。けれど、そのまま俺から視線をずらし再び若槻に向ける。
そして態とらしくにっこりと微笑む若槻に、きっぱりと言ったのだ。
「悪いが、俺には補佐はいらない」
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