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悪酔いしないはずがない。
周囲に悪態をつきながらも、記憶があったのは2時間くらいか。
気がついたら薄暗がりのなか、見慣れた自分のアパートの天井を見ていた。
首を動かすと猛烈な頭痛が来た。だが喉が渇いて死にそうだったので、
呻きながら起き上がった。
どうやって帰って来たのか。
靴も脱いでパイプベッドの上にいたってことは、案外しっかりしてたのかな。
・・・・憶えてないけど。
頭を抱えながら流し台へ行こうとしてはじめて、部屋の隅の暗がりのなか、
うずくまる生き物に気がついて心臓が止まりそうになった。
かろうじてひっくり返りかけたのを踏みとどまって、
「お、おい。」と声をかける。
体育座りの状態で膝をかかえて、その膝小僧に顔を埋めているのは、まだ細っこい体をしたガキだ。
どうやらこの体勢で爆睡してるようだ。こいつ、誰だ。
おそるおそる、肩を掴んで揺すってみる。振動で自分の頭がガンガンする。
だめだ、まず水、飲もう。
水道水をコップで受けて飲む。
あーーーーー。砂漠の砂みたいだった体に水がしみ込んでくる。
コップを流しにカツン、と置いたとき、
「あ」
背後で声がして振り向くと、体育座りが頭を持ち上げていた。
手のひらで自分の口元をぬぐっている。
「うわ、寝てもうてた。」じゅるっとよだれをすすってふと顔をあげる。
少し長めの黒髪。前髪がすだれのように垂れて顔の上半分を隠してしまってる。
顎のラインがまだ少年の面影を残している。
「あ、大丈夫・・・ですか?」
「おまえ、誰?」
「僕・・・藤川です。」
「藤川・・・?」
「あの。昨日僕の歓迎会やったんですけど・・・。」
「あ。ああ。そう、そうだったっけ。」
「はい。」
「で?なんで?俺の部屋にいる訳?」
「憶えてないんですか?」
藤川は体を伸ばしかけて一瞬口をゆがめた。ヘンな体勢で寝たせいで、体が固まったらしい。
「いててっ・・・。佐伯さん・・・酔っぱらってお店で寝ちゃったんですよ。」
「えっ」
「劇団の先輩が、オマエ家近いから送って行けって・・・。 タクシーに一緒に乗せられて。」
「そうなの?」
「部屋の鍵もなかなか見つからなくて、たいへんやったんですよ。」
膝立ちになって、腰と肩を伸ばしながら、藤川は口をとがらせた。
「そりゃ悪かったな。歓迎会の主賓にそんなことさせちまって。」
俺はベッドに戻って腰掛けると、頭をかいた。
「でも・・・、なんでここにいんの?」
「え?」
「いや、部屋まで送って、寝かせて・・・、なんでまだいんの?」
「それは・・・。」
ハッとした。
「オマエまさか・・・! おっ、襲ったのか?」
「へ?」
俺はあわてて自分の首筋やら腹のあたりをまさぐってみた。
なんかされた形跡がないか・・・。
いや、まず男が男になんかするときって、どうするんだ?
思わず股間に目を落とした時、
「ちょっと!違いますよ!」
藤川が飛び上がるように立ち上がった。
髪がゆれて、初めて彼の眼がちゃんと見えた。
綺麗な瞳だった。
ただ、彫りが多少深く、やぶにらみなせいで、ひどく悪相に見える。
そっか、だから前髪で隠してるのか。
「佐伯さんが・・・・泣いてたから。」
「へ?」
藤川は耳まで赤くなって俯くと、小さな声で言った。
「僕の手ぇ掴んで、一人になんのはいややって、泣いてたから。」
今度は俺が赤くなる番だった。そんなこと、酔って言ったの?俺?
はずかしい。恥ずかしすぎる。いくら荒れてたからといって・・・。
「そんで僕、ほな、ここにいますからって。」
今まで体育座りをしてた場所を指して言う。
「で、ずっといてくれたんだ。」
「はい。」
「でも俺・・・・、また寝ちまったんだろ? 」
「はい。わりと、すぐ。」
「じゃあ、ほっといて帰っちまえばよかったのに。」
「そう・・やけど・・・。でも佐伯さんが」
さっきから明るくなりかけてた室内が、さっと白味をおびた。
夜があけたようだ。
黒髪のすだれごしに、またあの綺麗な瞳がみえた。
「目が醒めたとき、誰もいなかったらさみしいかな、と思たんです。」
それが、俺と、19歳の藤川碧との出会いだった。
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