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いや、不審者ではないのか?いやどっからどう見ても怪しいから不審者か。
俺の鯖缶を奪った目の前の背の高い男はサングラスにマスクそしてパーカーのフードを被るといったどこからどう見ても不審者としか言いようのない格好でそこに立っていた。
だがそんなことより鯖缶だ。どうにか譲ってはくれないだろうか。他には店はねぇし。
少しの望みに俺は賭けてみることにした。
「なぁ、それ譲ってもらえねぇ?」
不審者?は数秒思案した後首を横に振った。何でだよ。俺に一日を棒に降らせるつもりかこの野郎!!
「どうしても作りたい料理があるんだ」
頼む不審者。俺に鯖缶を譲ってくれ。炊き込みご飯の為に素直に頭を下げる。滅多にしないんだからな!!
「……何を作るんだ?」
静かなその場に凛といた声が響いた。
目の前の不審者が喋ったのだと気づくのに数秒を要した。マスクに遮られてもその声は意志の強さを感じさせた。
何処かで聞いたことがあるような無いような声だ。まあ、気のせいか。知らん奴は知らん。
「鯖の炊き込みご飯を作るんだよ」
「この時間から?」
「朝飯には十分間に合うだろうが、他の野菜類は作り置きを冷凍しているから後はそれだけなんだよ。頼む!!」
顔の前で手を合わせる。不審者が微かに身じろいだのを感じる。
「他の魚じゃダメなのかい?」
こいつ、どんだけ鯖に執着してんだよ……!!ダメに決まってるだろクソ野郎さっさと俺に缶詰くれよ。
「ダメだ。頼む」
「…………じゃぁ条件がある」
男のその声にばっと顔を上げる。俺の目はさぞかし光り輝いていることだろう。
だって条件さえのめば手に入るんだろ?
「マジか!!やったお前いいやつだな。
2つくらい聞くに決まってんだろ!!」
「じゃぁ、1つめ、その炊き込みご飯を俺にも食べさせてくれること。
もう1つは今日の放課後に同じもの買っておくこと」
「そんなのでいいのか?」
「もちろんだよ」
メガネとマスクでどんな顔をしているのかは全く分からなかった。
でも俺はとにかく嬉しくて男の鯖缶を持つ手ごと両手で包んで(相手の方がでかいから完全には包めてなけど)ぶんぶんと上下に振った。
握手は心を暖かくすると生前母がよく言っていたから。
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