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父の友人、村岡大成という人。
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「お、孝弘」
「村岡サン」
片付けも全て終え真面目に登校しようとエントランスに出たところで、白地にプレーリードッグがプリントされたTシャツを着た村岡サンと遭遇した。焦げ茶色の髪が風に揺れている。日に焼けた肌が健康的だ。
手には箒を持っている。
村岡サン。本名は村岡大成という。この人はこの寮の寮監だ。そして、亡くなった父の友人。
それを知ったのは入寮初日だった。
『明!?』
エントランスをくぐったところでそう言われ、驚いたのを覚えている。あの時は確かエゾジカがプリントされたVネックだった。
相手の方が俺より驚いているように見え冷静さを取り戻した。
明というのは父の名前だ。そうか、そんなに似ているのかと心の隅で思った。
俺が何も言わないでいると村岡サンははっとして気まずそうに笑った。
『いや、悪い。昔の友人と間違えた』
『いえ、その友人て筒井明っすよね』
『―――っ』
次の瞬間村岡さんの顔が悲痛に歪んだのを俺は見ない振りをした。
だって村岡さんが一瞬で元の優しそうな笑みを浮かべたから。会ったばかりの俺にはきっと何もできなかったから。
『そうか。明は元気か?』
『いや、親父は俺が小学生の時に事故で―――』
今度は驚愕に見開かれる。
『……それは大変だったな』
『まぁ。親父とは同級生か何かで?』
『ああ』
そう言って彼はどこかに行ったと思うとすぐ帰ってきた。
ほら、と見せてくれたのは写真立てに入れられた親父と村岡さんの写真だった。今よりずっと若い。
親父の顔は確かに俺に似ていた。黒目がちの目だとか。輪郭だとか。
俺のオヤジと同級生なら村岡サンは今40手前ということになる。それにしては随分と若く見える。20代後半と言われても疑わない。
そういえばこの写真―――。
『この写真、俺見たことあるかも』
ばっ、と村岡サンの顔が上がる。困惑しているようだった。そして小さくどこで、と俺に聞いたのだ。
『親父の部屋に飾ってあったような……』
『っ……』
少しの間写真を眺めた村岡サンは笑みを浮かべた。まるで泣いていたようにも見てた。
『そっか、嬉しいなぁ』
『……親父と仲良かったんすね』
『まぁな』
写真の中の親父を見る村岡サンの表情はとても優しい。彼の指が大切なものに触れるようにそっと写真の縁をなぞった。
卒業して長い時間がたったのにまだ親父との写真を写真立てに入れてくれてるのはそれだけ親父と親しかったということだろう。
『あいつは本当にいい奴だったよ。
俺らの頃はまだ寮の部屋が二人部屋で俺らは同室だったんだ』
『そうなんすか』
『にしてもお前改めて見ると似てないなぁ……。身長なんて明より20cmは低いんじゃないか?』
『うっ……』
それには触れないで欲しかった。
確かに親父の身長は180cmだった。しかし母は146cm俺は母の方の血を濃く受け取ってしまったのだろう。
『ま、これから伸びるかもしれないから気落ちすんな、少年!!!!』
俺の背中をバシバシと叩きながら村岡サンは笑っていた。
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