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その後ネギ入りの卵焼きも作り終え、気づけば味噌汁を作り米を炊き、明日の弁当になるはずだった鶏肉のソテーはトマトソースとレタスとともにさらに盛り付けられ、その隣の皿のは卵焼きが鎮座している。
ばっちり夕飯の準備ができてしまった。
卵焼きを作り終えた当たりからソファーに戻った男はいつの間にかテレビを見ていた。
「おい、飯食うか?」
「もちろん」
テーブルに料理を並べ男と向かい合って座る。茶は今度こそ日本茶だ。
「いただきます」
「いただきます」
食器がない為男は割り箸。
まず卵焼きから、黄色と緑のコントラストが眩しい。これが食べるためだけに今日頑張ったんだ。
口に入れる。うん、卵焼きの甘もネギの甘味も美味しい。幸せな気分だ。
男は味噌汁を飲んでいる。具は豆腐とわかめ。
「なぁ、こないだの鯖缶どうしたんだ?」
「ああ、勝手に入ってごめんね。急いでたから。
ちゃんと食べたよ。でも、君の炊き込みご飯の方が美味しかった」
「あ、そ……新しい世界は見えたのかよ」
「ふふ、見えたよ。少しは見たつもり」
自分の料理を褒められることがむず痒い。今まで全く褒められたことがないわけでもないのに。食堂のおばちゃんだって村岡サンだって。
ああ、でも、
こうやって誰かと『食卓』を囲むのは随分久しぶりな気がする。叔父の家にいたときは一緒に食事はとらなかったし、こっちに来ても三木と教室で昼飯を食うだけ。
最後に誰かと食卓を囲んだのは遡ればずっと昔の事だ。懐かしい記憶。
優しい声と眼差しで包まれていたあの日々。
そうか。俺は誰かと一緒に食卓を囲みたかったんだ。一人じゃなくて学校の机じゃなくて。
だから男の来訪を迷惑だなんて思わなかったんだ。
そう自覚して、溢れそうになるものをそっと抑えた。
一つ摘んだ卵焼きは優しい味がした。
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