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side: 痣とキスマーク。
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筒井を見送った三木は小さく嘆息すると村岡に向き直った。
「脱げば、いいんですよね?」
どこか諦めたような口調でそう言って立ち上がりパーカーを脱ぎ、そしてカッターシャツも脱ぎ捨てる。
村岡は何も言わない。
「あれ、驚くと思ったんだけどなぁ?」
クスクスと笑う三木の体には無数の青痣、背中には大量のキスマークが刻まれている。青と赤のコンストラストが何故か三木を妖艶に見せる。
「愛されてるでしょ? 俺」
毎日先輩が離してくれないんですとくすり、と笑う。それに同じく立ち上がった村岡は何も言わないで三木の背に触れた。
キスマークをするりと撫で、痣を強く押す。
三木の息が漏れる。
「痛いだろ」
静かにそう言った。問いかけではなく断定。
三木は答えなかった。
「最初に殴られたのは?」
「付き合って一週間だから5月の中旬くらいですかね」
「理由は」
「俺が友達に抱きついたの見て勘違いしたみたいで」
浮気だーって、腹殴られました、と三木は笑う。眉を顰めた村岡にあ、大丈夫ですよと断る。
「ちゃんと抱きしめて謝ってくれましたから」
嬉しかったなぁと呟く三木の頬は微かに紅い。村岡は溜息をつきたくなる。
「孝弘と話してても怒られた?」
「いえ、それは。俺がちゃんと説明しました。
その時も二回くらい蹴られたけど、あの人心配症だから」
あ、寒いんで服着ていいですか? と言って、カッターシャツを着る。
「君はそれ怖くじゃないのか?」
「怖いも何も俺が心配させてるんです」
これは愛の証なんです。そう言って笑った三木はとてつもなく妖艶で色気を醸し出していた。
そんな三木を村岡は厳しい目で見つめる。
「じゃぁどうして、頑なに隠してた? さっきも孝弘に見せたくないっていっただろ」
「だって、みんな勘違いして心配するじゃないですか。村岡さんみたいに 」
「勘違いじゃぁ、ないと思うんだが」
だから、と言いかけた三木の口からか細い悲鳴が漏れる。村岡が手を振りあげたからだった。
その手は三木を傷つけることはなく頭に優しく触れた。
「……怖いだろ? 殴られるのも蹴られるのも本当はとても怖いんだろ?」
優しく問いかける村岡にふるりと三木は首を振る。
「怖くないです、だって俺」
先輩のこと好きだから、そう言おうとした。だがそれを遮るように着信音が響いてそれに三木はさらに肩を震わせる。
三木にとってそれは聞きなれたものだった。1日に一度は必ず聞く。決められた着信音。
「ほら、今躊躇ってるだろ、そう言う事だよ」
「ちが、」
「違わない。三木君は平気って言ってるし自分でもそう思ってるかもしれないけどな、いや、目を逸らしてる。薄々は気づいてるんだろ?」
電話に出なければゆるゆると取り出した携帯を村岡が奪う。
「出なくていい」
「だって、でないと俺!!」
「殴られるか?」
「っ…………」
その通りだ。電話に出なければ三木はその後殴られるだろう。
心配していたから電話をしたのにどうして出てくれなかったの? どこで何をしていたの? 心配していたのに、愛してるのに、そんな免罪符で三木は傷つけられるのだ。
「三木君、好きだから、愛しているからと言って相手を傷つけていい理由にはならない」
村岡の言葉に三木はもう何と言っていいかわからなかった。
今まで囁かれた言葉と振るわれた拳がごちゃまぜになって脳内を巡る。
好きだと言われると嬉しい。愛していると囁かれると気持ちいい。自分も相手が好きで。その体温がたまらなく好き。キスはもっと好き。
自分が弁当を作ったときはとても喜んでくれた。美味しいと笑って毎日食べれたら幸せだなんて言ってくれた。
殴られるのも蹴られるのも自分が悪い。だって彼を不安にさせたから。いつもとても優しい彼を変えてしまったから。
それなのに謝ってくれる。殴った後は必ず愛してくれた。その場所に何度も優しく触れてキスをくれる。彼の優しさがとても愛おしい。
そう思っている筈で、そう思っていなければいけないのに、
「……俺、先輩のこと好きだけど、怖い」
何時からかは分からない。たった今それに気づいたのだから。
その事実に気づいた三木は泣きたくなった。眼前に刃物を突きつけられた気分だった。
恋慕と恐怖が同居して彼の中をかき回す。
ぽーんとまぬけに響いた通知音。
村岡が三木に画面を見せた。
『亮大、早く帰っておいで。ずっと待ってるんだよ』
それを見て三木は息を呑んだ。メッセージには装飾がない。彼が怒っている時の証拠だった。
「帰りたいか?」
思わず、首を振っていた。
「今日は泊まってけ。部屋を貸すから」
「……はい」
自分の頭を撫でた村岡の手は暖かかった。
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