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side:三木 痣とキス。最後。
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「亮大早いね」
「いつも先輩のこと待たせちゃってたから」
そう言って笑いかけると先輩はオレに向かって手を伸ばしてきた。後ろへ逃げようとしたけど二人がけのシートで後ろは壁で逃げられない。先輩は、俺の頭を撫でただけだった。
ああ、俺本当に先輩のこと......
昨日電話で先輩町の喫茶店に呼び出した。校内にもあるけれど大事な話は流石にできない。
先輩のシートの後ろには村岡さんが座っている。
机の下のケータイに目を落とすと大丈夫だ。頑張れ、と村岡さんからメッセージが入った。
気持ちが入る。俺はもう先輩から離れなきゃならない。
「先輩、俺もうこういうの辞めたいです」
先輩の眉がぴくり、と揺れた。俺の考えを計りかねてるって感じだ。
「どういうこと?」
「だから、もう先輩とお昼ご飯一緒に食べたり、キスしたりデートしたりできません」
「それって俺と別れようってこと?」
声が低くなる。怒ってる。すぐに分かった。だっていつもこの目に見つめられてきた。
それは筒井と話している時だったり、宮村と笑い合ってる時だったり、やっちゃんとじゃれあってる時だったり他にもたくさんあった。
俺はとにかくこの目が怖くて怖くて堪らなかったんだ。自分では気づいていなかったけど。
その目で見られた日は。殴られるから。俺は殴られた後のキスに全てを誤魔化されてた。
「どうして急に?」
「俺、先輩に沢山傷つけられました。痛かったです。すごく。もう、怖いんです。さっきだって......ひっ」
バンッ!!と机が叩かれる。後ろはシートだけ。先輩の目が違う。俺を殴る時の目だ。
いやだ、怖い。昨日自覚をしてから恐怖しかない。
「お待たせしました〜」
あえてだろうか険悪な雰囲気に割って入るように同い年くらいのウエイトレスの女の子が注文した品を運んで来た。
一瞬目が合うとふわり、と微笑んでくれた。少し、落ち着いた。
「亮大はオレの物なのにどうしてそんなことを言うの?」
「違います。先輩は付き合い始めた時から俺のことを先輩のものだと言っていたけれど俺は誰のものでもありません」
手も、声も震える。
「誰かに、何か吹き込まれた?」
びくっと肩が揺れる。
「あぁ、そうなんだ。やっぱりそうなんだ。そうだよね。だって亮大が俺から離れるわけないもんね。
で、誰? 亮大に悪いこと吹き込んだの誰?」
「俺の、意思です」
村岡さんに指摘されてのことだけど別れると決意したのは俺だ。紛れもない俺の意思だ。
「可哀想な亮大、そいつに洗脳でもされちゃったんだ」
立ち上がった先輩の両手が伸びてくる。
違う違う。俺はあんたに洗脳されてたんだ。されかけてたんだ。あんたに暴力振るわれて支配されてたんだ。
そう言いたいのに、声が出ない。顔を掴まれて上を向かされる。ひゅ、と息が漏れた。
「可哀想。ここじゃ、大切な話なんかできないよ。さぁ、俺の部屋に帰ろう」
腕を掴まれる。嫌だ。このままだと俺、また......
「お前ちょっと見苦しいぞ?」
先輩の腕が掴まれて俺から引き離される。ホットしてシートに座り込んでしまう。村岡さんだ。
「お前か、亮大に変なこと吹き込んだのは?」
「こっちの台詞だ。お前が三木君に暴力振るったんだろ」
ぎり、と腕を締め付ける。先輩がうっとうめいた。
「恋人がが怖がってるのにも気づけない、恋人のことを考えてると言いながら自分の事しか考えていない。別れてやった方が懸命だと思わないか?」
「村岡さん、先輩の事離してあげてください」
「ほら!! 亮大は俺のことを愛してる」
村岡さんはしぶしぶといった様子で手を離した。
パンッと子気味いい音が店内に響いた。手が痛い。先輩頬を打ったからだ。
「俺、痛かったですよ。これ以上に。気づいていなかったけどずっとずっと心も体も。これ以上傷つけられるなんて耐えられません。
だから、別れれください。嫌なら一発殴ってください。それで諦めてください」
好きでした、とは言わない。好きだったけど言ってやらない。もう別れると決めたから。
先輩は1度手を振りあげた。俺は目を瞑らない。先輩の顔を見つめたまま。衝撃は来なかった。
「そんなに、俺を悪者にしないでよ......」
泣きそうな声で言った先輩はふらりと店から出ていった。
終わったんだ。安堵なのか何なのか。終わったという実感だけが胸に降りてきた。
「......村岡さん」
「良くやったなお疲れさん」
ぽんっと頭を撫でてくれた。はぁっと息が漏れる。
「飲み物飲んで落ち着きな」
「はい」
村岡さんが店員さんたちに謝ってくれてる。そうだよなぁ、同性同士のあれこれなんて聞きたくないよなぁ......
「あ、美味しい」
やっぱりミルクティー美味しい。
「あれ? 涙出てきた、ははっダメだなぁ......」
「ダメじゃないだろ」
どかっと前のシートに座った村岡さんがニカッと笑った。
「はい、ありがとうございます」
その優しい声にさらに涙が溢れてきた。
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