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暫し間をおいて。
「えっと、改めましてうちのタレントが迷惑かけたみたいですみません」
とりあえずここでは何だしと近くの喫茶店に腰を落ち着けた僕達。開口一番に青年は謝罪の言葉を口にした。
青年は貴文さんと言って、芸能事務所で働く役員との事。
それは別にいいんだけど、何が一番驚いたってさっきまで僕を追い掛けて来ていた奴が実はSAGINのメンバーである神田トナミだったって事だ。
それには流石に驚いた。
「ほらお前も謝れ!」
貴文さんはガシッとトナミさんの頭を掴み無理矢理頭を下げさせる。
「ごめん……なさい」
「本当すいません」
「いや、別にそれはもういいですけど。でも何だってアイドル自ら売り込みなんて」
「売り込み? ってちょっと待て。お前あれほどそんな事しなくていいっつったのにまだやってたのかよ!?」
「だって後200枚売らないと元とれないって言ってたじゃん!」
「誰に聞いたよそんな事」
「実パパとそう話してるの俺聞いちゃったんだもん。このままだったら借金の返済分捻出出来ないって。だから俺……」
「あー……それはまぁそうなんだけど。でもそんなんお前が気にする事じゃない 。俺が協力して欲しいっつったのは仕事が入る様に頑張ってくれって言っただけで自ら体はってCD売ってこいなんて言ってないだ ろ?」
「そうだけどさぁ。でも俺まだ今月一度も仕事とれてないし……さ」
ぶーっと口を尖らせるトナミさんに貴文さんは大きく溜め息をついた。
「それは俺らスタッフ側の仕事であってお前らタレントの仕事じゃないんだよ。お前はそんな事しなくて気兼ねなくオーディション受けてればいいの」
「う~……わかった」
「よろしい。で、えーとミナト君だったっけ?」
「は、はい!」
会話の矛先が僕の方に向けられる。
名前を呼ばれ返事を返すと、貴文さんが申し訳なさそうに眉を寄せてもう一度「ごめんな」と謝罪の言葉を口にした。
「本当に迷惑かけてごめん」
「いや、そんな。別にもう怒ってませんし。それに僕もトナミさんに失礼な事言っちゃいましたし」
千円でも出して買う必要性がないって言っちゃったし……。
「ごめんなさい」
トナミさんに向き合ってペコリと頭を下げると彼は驚いた様に目を見開いた。
「何でお前が謝るんだよ!」
「何でって失礼な事言ったから」
「そ、そんなの俺別に全然気にしてないし! 俺も無理言って悪かったし、さ」
「でも……」
「いーんだってば! た、貴文もう事務所戻るんだろ? 行こうよ」
ガタガタと立ち上がり、じゃあなと一言言ってまるで逃げるかのように外に駆けていったトナミさんの後ろ姿をポカンと見ていると、隣でクツクツと笑っている貴文さんが目 端に映る。
「なぁに照れてんだか」
「照れてる?」
「あいつ、素直な奴に弱いから。SAGINのメンバーにも君と似たような奴がいるんだけど、唯一あいつが気負けする奴なんだ」
「ふーん……」
「じゃあ俺も失礼するわ。今日は悪かったな。じゃ」
「あ、はい」
レジで会計を済ませさっさとトナミさんを追って外に出て行く貴文さんを見送ると、本日幾度めかの溜め息をつく。
SAGIN。神田トナミ……か。
ふーん……。
僕は喫茶店を出るとそのまま先程いたCDショップへと足を向けた。
陳列されたCDの中からSAGINのCDを手に取るとふむ、と頷いた。
「ま、一枚くらいは投資してもいいかな」
ポツリと呟くとそのままCDを手にレジへと向かった━━━━。
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