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再会
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「うーわー」
叔父さんが勤めるMEETING事務所は来るのは初めてじゃないけれど、来る度に飽きれと言うか驚きと言うか……そんな声をあげてしまう。
「また寂れたんじゃないんですかここ」
割れた窓の代わりに貼られた新聞紙。所々チカチカと切れかかる光る電球。なんて言うか、来る度に廃ビル度増してくんだよなここ。
「SAGINでそこそこ稼いでるんじゃないんですか?」
「それがそうでもないんですよ。CDを作るのにも色々物入りですし、SAGINのメンバーを維持するのにもそれなりにお金がかかります。勿論このビルもね」
「でもせめて窓と電球くらいは新しくした方がいいんじゃ……」
ポツリと呟くと、叔父さんははぁ ̄と深く溜め息をついた。
「それは僕も言ったんですがね。これから寒くなるし風邪をひきますよと。けどそんなのに金を使うならタレントを売り込んでこいって社長がね」
「へぇー」
結構いい人みたいだなその社長さん。普通だったら見掛けとか気にして会社は小綺麗にしそうなのに。
タンタンと音をたてて階段をあがってゆく。事務所は地下一階上に三階のちょっと小さめの建物。地下がレコーディングブース。一階が受付で二階が事務所兼社長室。本当は三階が社長室だったらしいけど今は物置になってるらしい。
二階にあがり部屋のドアを開け中に入ると、ソファーに腰掛け二人はボリボリとお菓子を貪り、そして一人は雑誌を読みふけっていた。
「あ、美月じゃん」
「お帰りー」
あ、この人達SAGINだ。買ったCDのジャケット写真に載ってた。
雑誌を読んでいる10歳頃の男の子。綺麗な金髪を短く切り揃えたその子は確か最年少メンバーのシーナ。で、その隣でお菓子を貪り食べてる深紫に髪を染めてるのがリーダーの蘭で黒髪の子がシーナの相方の悠太。だったかな。
一人一人記憶の中のジャケット写真と照らし合わせながらうんうんと頷いた。
「あれ? 誰そいつ」
悠太が叔父さんの後ろ立ち尽くす僕に気が付くとトタトタと近付いてひょいっと顔を覗き込んでくる。
「もしかして新しいタレント候補?」
「いいえ、この子は僕の甥でミナト君。今回トナミ君の歌詞を担当してくれたんです」
「甥っ子っ?」
悠太と蘭の声が重なる。とても驚いた顔してるのは何故だろう。
「本当お前って歳いくつなんだよ美月」
「本当年齢不詳だよなー。でも甥っ子がいるって事は三十代でもおかしくないんじゃない?」
「へぇ、僕が三十路もすぎたオジサンだと……悠太君?」
悠太の失言らしい言葉に、叔父さんはいつもより深い笑みを携える。
あ、あの顔は怒ってる顔だ。
「え、いや別に本気で言った訳じゃないって! 冗談だよ冗談!」
アハハと笑って言葉を取り繕う悠太。そんな彼に叔父さんは呆れたように肩を竦めると「それで」と言葉を続ける。
「社長とトナミ君はどちらに?」
「トナミはいつもの場所です。貴文はそのお守りと言うか宥め役やってます」
叔父さんの問い掛けに今まで我関せずと雑誌を見ていたシーナが口を開く。
「おや、またですか」
シーナの話に叔父さんが苦い顔を見せる。
「まったく、いい加減社長にも彼を甘やかすのをやめて頂かなくては。ちょっと僕も行ってきます」
そう言って部屋を出ていく叔父さんを見送った後、隣に立ったままの悠太に「あの」と声をかける。
「トナミさんどうかしたんですか?」
「え?」
「何か宥めるとかお守りとか」
「あぁ、別に大した事はないんだけどさ」
「ただの子供染みたワガママですよ。本当いくつになっても子供なんだから」
「おーいっちょ前な口聞きやがって」
はぁ、と呆れた溜め息をついたシーナの頭を蘭がガシガシと撫で回す。
そう言えばカップリング曲で何かゴタゴタしてるって言ってたっけ。
「トナミさんの今回の曲って二曲なんですか?」
「え,何で?」
「叔父さんが言ってたから。カップリング曲でゴタゴタしてるって」
「あ、あぁ……何だ知ってるんだ」
「あいつよ、カッコイイ曲じゃないと歌いたくないーってワガママ言ってんだぜ。くだらないったら」
「え、でも僕が詩を書かせてもらったのは結構なんて言うかハイテンポでカッコよかったですよ」
「あーそっちじゃなくてもう一曲あって、それがなんつーかちょっと大人しめの曲で」
「なんて言ったっけ?」
「雛瑠璃です」
「あーそうそうそれそれ」
雛瑠璃? へぇ綺麗なタイトルじゃないですか。
そう言葉を返せば彼らはなお複雑そうに笑う。
「まぁタイトルはな」
「いーんだけどねぇ」
「?」
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