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う……そんなキッパリ否定しなくてもいいのに……。
「まぁそれはいいとして」
貴文さんがパンッと手を叩き、ガシリとトナミの首根っこを捉える。
え? と仰ぎみたトナミさんにニッコリスマイルを向ける叔父さん。
「レコーディング開始しましょうか」
「…………」
暫し間を置いて状況を把握したトナミさんがジタバタと暴れだす。
「やだーっ! やだやだやだーっ! 俺絶対やだかんね!」
まるで猫相手にするように首根っこを掴んだまま歩き始めた貴文さん。
それを叔父さんは呆れた様に溜め息をつきながら見やる。
「あまり手を煩わせないで頂けませんかね。僕も暇じゃないんですよ。テレビ局に仕事を頂き(脅しをかけ)に行かないといけないですし作曲家の先生の所にも依頼品を頂き(奪い)に行かないといけないですし」
忙しいんです、と笑う叔父さん。
今なんか余計な声が聴こえた気がした気がしたけど多分聞き間違いだろうウン。
「それに今日の為にわざわざお借りしたんでしょうその羽織」
「そうだぞお前。大事な商売道具をお守りにって貸してくれた鈴音さんの為にも頑張れよな」
あ、そうだそれも気になってたんだ。何でトナミさん羽織なんて着てるんだろうって。お守りってちゃんと上手く歌える様にって事かな?
トナミさんは脱げかけた羽織の襟元を慌てて手繰り寄せると「それとこれとは別だもん」といじけたように唇を尖らせた。
「花魁の歌なんてさ、バカみたい。男の俺に女心を歌えって無理に決まってんじゃんか」
貴文さんに引きずられながら尚もブツクサと文句を言っているトナミ。なんか百瀬さんが言ってた意味わかった気がする。
ワガママだこの人……。
地下のレコーディングブースに入ってからもトナミさんのいぢけは変わらず、声を下さいと言う叔父さんの言葉にさえ無視して黙りこくっていた。
「ダメかぁ」
貴文さんがため息混じりに言いながらギシリと音をたて椅子に腰を下ろした。
「どこまで頑固なんだよあのバカ」
「唯一言うことを聞かせられる樹くんは今撮影で出てますからね。最終手段を使うしかないですかねぇ」
スッと胸ポケットから携帯を取り出して「どうします?」と首を傾げる叔父さんに、貴文さんは「あー……うん」と少し迷いを含んだ返事を返す。
「でも何回目だよこの最終手段。いい加減電話越しの説得は効果ないんじゃないか?」
「ええそうでしょうね」
さらりと答えた叔父さんにズルリとコケる貴文さん。
「じゃあどうすんだよ」
「まぁ僕に任せておいて下さい」
言って叔父さんは携帯を開くと何処かに電話を始めた。
「ああ、朝早くに申し訳ありません今よろしいですか?」
あ、誰か電話出た。
貴文さんに隣の席を差し出され、僕も腰掛けて事の次第を見守る。
「ええ、ええそうなんです。お宅の猫がいい加減躾が悪すぎて……はい。いえ、実力行使をしてもよろしいんですよ? 僕としましてもこのまま社に不利益になる事は避けたいのだし」
な、何か会話が怖いんですけど……。
「貴文社長では少し彼の扱いは難しいかと思いますし、このままレコーディングが出来ないとなると僕も色々と都合と言うものが……ええ、はい、はい。じゃあお願い出来ますか?」
「誰に電話してるんですか?」
小さく耳打ちするように貴文さんに問い掛けると、貴文さんは少しバツの悪そうな笑みを見せる。
「まぁ、トナミの飼い主っつーか。あいつが唯一絶対何があっても逆らわない相手……かな」
トナミさんが唯一絶対何があっても逆らわない相手……。
「それってトナミさんが一番に怖れる人って事ですか?」
いるんだそんな人。いなさそうなのに。
「いや、そうじゃなくてあいつを上手く餌付けたって言うか……まぁあいつの育ての親みたいな人なんだけど、その人
の言う事にはあいつ絶対何があろうと逆らわないって言うかさ」
「へぇ」
「ええでは後程。ああそうそうついでにランチを四人分お願いします。いやだなぁちゃんと代金はお支払しますよ。ええ、では」
プツッと通話が終了し、叔父さんは「ふぅ」と一つ息をついてから僕達へと向き直る。
「とりあえず彼に説得して頂く事にしました」
「えっ……て呼び出したのか? ここにっ?」
「ええ」
「はぁっ? おまっ、何て迷惑な事っ……」
驚きに声をあげる貴文さんに叔父さんはさらりと「仕方ないでしょう」と返す。
「このままレコーディングが滞ると言う事はその分ブレス会社さんにお待ち頂くと言う事です。ミキシング迄は僕が行うとしてもブレスが遅れれば発売日も遅れる」
「そりゃ、そうだろうけど……」
「貴文さん、これはビジネスです。タレントを甘やかすだけではこの業界生き残っては行けませんよ」
厳しい言葉に俯いてしまった貴文さんがなんか可哀想で、いけないと思いつつも横から挙手しながら声をかける。
「あ、あの叔父さん」
「何ですミナト君?」
「ちょっとトナミさんとお話ししていいですか?」
「? ええ、よろしいですよ」
不思議そうに首を傾げる叔父さんに軽く礼をのべながらレコーディングブースに足を踏み入れる。
「……何だよ」
トナミさん、と声をかければぶすくれた声が返って来る。そんな彼にそーっと近付く。
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