アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
怒り
-
そうして幾時間か過ぎた後。
「やだやだやだ! 俺絶対ヤダかんね!」
現状は一向に変わってはいなかった……涙。
「いい加減にしろよこのバカ猫! どんだけワガママ言えば気がすむんだお前はっ?」
「何だよじゃあ貴文か美月が歌えばいいだろ! どうせイスに座って威張ってるだけなんだからさっ」
「にゃにいーっ? こんのっ、人が黙っていう事聞いてると思ったらこのクソガキ……ッ」
「わーっ貴文さんストップストーップ!」
今にも殴りかからんとする貴文さんを後ろから羽交い締めに止める。でもそんな拘束は彼にとってはあって無いような物でズリズリと僕ごと引き摺りながらブースの中に入ろうとする。僕はそれを必死に留めながら叔父さんに助けを求め視線を向ける。
けど叔父さんは我関せずと言った様で、向けた視線をことごとく弾き返してくる。
てか貴文さん力強すぎ!
半ばぜぇはぁと僕が疲れを滲み出し始めた頃、漸く叔父さんがパンッと一手を打つ。
その音に僕、貴文さん、トナミさんの視線が集まるのと同時に、叔父さんがスッと人差し指でスタジオの出入口を指し示す。そしてニッコリと微笑んだ。
「もういいですよトナミ君」
「へ?」
叔父さんの言葉に貴文さんが間の抜けた様な声をもらす。
「もういいって、だってお前……」
「出ていきなさい。貴方はもう必要(いり)ません」
次に放たれた言葉に、周りの空気がピシリと固まる音が聞こえた気がした。
「貴方が今まで前事務所でどれだけの経歴を培って来たのかは勿論存じ上げているつもりです。ですがあれも嫌これも嫌と文句ばかり言うのなら申し訳ありませんが今日限りで切らせて頂きます」
「ちょっ、ちょっと待てって美月。切るって、トナミとの専属契約を切るって言ってんのか?」
「いいえ。それは社長である貴文さんとの問題ですから僕が口を出すことではありません。ですが、彼のプロデュースから一切手を退かせて頂きます」
「はぁっ?」
トナミさんが驚きに目を見開くのと貴文さんが声をあげるのはほぼ同時だった。
「プロデュースから手を退くって……じゃあどうすんだよ今回の新曲。もうタイアップだって決まってんだぞっ?」
「決まってようが決まってなかろうが制作自体が出来ないんです。御断りを入れるしかないでしょう」
「御断りを入れるってそんな簡単に……っ」
「大丈夫ですよ僕なら。では話は以上です」
叔父さんは貴文さんの言葉をさらりと流して話を終了させ、ブースの機械の電源も全て落としてしまう。手早く荷物を纏めると、それじゃあと部屋を出ていった。
叔父さんが出ていった後、スタジオの中はしんと静まり返っていた。
はぁ、とその中で誰かが一息をつく音が聞こえ僕はドアからそちらへと視線を向ける。すると貴文さんがイラただしげに頭をガシガシと掻きむしりながらドサッとイスに腰を降ろした。
そしてもう一度もれた今度は深い深い深呼吸するに近い溜め息。
「で?」
低い声がトナミさんに向かって言葉を投げ掛ける。
呼び掛けられた彼は目線だけを貴文さんに向ける。
「これ、どう収集つけるんだお前」
手に持った書類らしき紙を放りなげながら問いかける。その問い掛けはどことなく刺々しい。
「前回の生放送ブッチといい今回といい……今回ばっかりは俺だって庇えねぇからな」
「別に庇ってもらおうなんて思ってないし……」
ポツリとトナミさんからもれた言葉に、貴文さんは先程放り投げた書類をぐしゃぐしゃと丸めトナミさんに投げつけ立ち上がる。
「ああそうかよ、じゃあもう勝手にしやがれ!」
吐き捨てる様にそれだけ言ってスタジオから出て行った。
貴文さんが出ていく時一瞬トナミさんが惑いの表情を見せ手をあげたが、その手は何も掴む事なく下ろされた。
また部屋の中が沈黙に包まれる。
黙ったままイスに腰掛けたトナミさん。なんとなくそのまま彼を置いていく事が憚れ、僕も少し離れた場所に腰を降ろした。
どうしよう、何か言葉かけた方がいいのかな? それとも黙ってた方がいいのかな?
うやむやと考えながら、ふと見た腕時計。針は丁度お昼の12時を差していた。
「あ、あのトナミ……さん」
「…………」
「ご飯、食べに行きません?」
「…………」
うあー無反応だどうしよう……。
や、別に餌で釣ろうなんてそんな事思ってる訳じゃないんだよ。うんけして。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
14 / 19