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小さな手と消え行く光
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なんだかんだと買い物を終えた一行は、店から1番近いエレベーターへと向かい、歩いていた。
嫁達は着ぐるみが入った小さな紙袋を腕に下げ、旦那達は両手に大きな荷物を抱えながら、嫁達の後ろを歩く。
エレベーターの前まで来ると、扉の前にデパートのコスチュームを着た店員が立っており、その脇には【エレベーターは現在故障中です】と書いた看板が置かれていた。
「…あれ?エレベーター故障中なの?」と降旗が言うと、店員は「…申し訳御座いません。」と頭を下げた。
「…現在、当デパートのエレベーターは緊急点検のため、一時的に使用を停止しております。直ぐに復旧するとは思いますが、ご移動の際はエスカレーターをお使い下さい。」
「……それなら仕方が無いね。…では、あそこにあるエスカレーターから下りようか…。」
赤司の一言で、皆は視線の先にあるエスカレーターへと向かった。
笠松が、スルスルと階段を吐き出すエスカレーターの乗り口に来ると、黄瀬が「…幸男さん、危ないっスから、足元気をつけて。」と手を差し出してきた。
「……なんだよ?」
「…何って、エスコートっスよ。転んだら大変ですし。」
更に手を差し出されて、笠松が戸惑っていると綺麗な手が、同じ指輪のはめられた手を握った。
「…ちょ、おい!涼太!」
「…恥ずかしがらなくても大丈夫っスよ。皆同じっスから。」
「…同じって…」
ツンツン頭を後ろに振り返れば、そこには同じ様にエスコートされ、手を繋いだ嫁達がいた。
「……お前ら…」
「…ほらね、皆同じでしょ?……だから、恥ずかしくても少し我慢して。…幸男さんとベィビーの身の安全の為なんスからね。」
そう言われてしまえば、笠松は頷くしかない。
返事をしない代わりに、手をギュっと握り返した。
黄瀬は甘い顔をニコッと微笑ますと「…じゃあ、一緒に下りましょうか…。」と言って、手を引きながらエスカレーターに乗り込んだ。
黄瀬夫婦を先頭に、次々と他の夫婦達も続いて階段を下りる。
「…テツヤ、抱っこしてやろーか?」
「…手だけで十分ですよ。大我君。」
「…孝輔、自分足元悪いんやから、気いつけなあかんで。」
「……うす…。」
「……室ちん、もっとちゃんと腕組んでよ。危ないじゃん。」
「……フフ…Sorry…。敦は荷物をたくさん持ってるから、動きずらいかと思ったんだよ。」
「…順平、黄色い線から足をはみ出すなよ。」
「ダァホ!お前は俺のオカンか!」
「…和成、そのパンダを寄越すのだよ。前が見えないだろう。」
「…大丈夫だって!真ちゃんの方が大荷物じゃん!」
「……良、下を見てゆっくり降りろ。…手を掴んでるから大丈夫だ。」
「…はい、すみません…。ありがとうございます…。」
会話の順番にエスカレーターへ乗り込み、長い道を下って行く。
緩やかな流れに身を任せながら「喉乾いたねー。」「…どっかでお茶していくか。」などこれからの予定を話していると、背後から何やら揉めている様な声が聞こえてきて、それに気付いた緑間夫婦と、青峰夫婦が後ろに振り返る。
すると、そこにはエスカレーター中央辺りに乗っていた親子が喧嘩をしていた。
喧嘩と言うよりも、若い母親が愚図る幼い子を一方的に怒鳴りつけている。
「なんでアンタはいつも愚図るのよ!いい加減泣きやみなさいよ!!」
人目も気にせずに喚き散らす母親とは反対に、子供は俯いて泣いていた。
その様子を見ていた桜井が辛そうな顔をして、繋がれていた大きな手をグッと握り、目をそらした。
「……気にすんな。…あれは俺達が口を挟める事じゃねぇ…。」
細い腰に長い腕をまわすと、顔を隠す様に、厚い胸元に抱き寄せた。
「……もう少し、子供の話を聞いてやればいいのに…。」
「…仕方が無いのだよ、和成…。最近の若い親は、親に成りきれていない未熟な者が多いのだからな…。」
さっきまでの楽しかった気分は無くなり、辺りは嫌な雰囲気に包まれた。
青峰と緑間夫婦は前を向き直すも、まだ母親の喚き声は無くならない。
高尾はホークアイを使って、親子の様子を伺っていた。
他の夫婦達は既にエスカレーターを降り、後数十段で自分達も降り口に差し掛かると言う時、突如高尾が勢いよく振り返って「桜井!青峰!離れろ!!」と叫んだ。
いきなりの事に桜井と青峰、そして緑間は驚いたが、青峰は瞬時に桜井の身体を離して、2人の中央に間をとった。
すると「ママなんて大っキライ!!!」と子供の叫ぶ声が聞こえ、それと同時に4人の間を猛スピードで何かが走り抜けて行く。
前すら見ていないであろう子供は、4人の横を嵐の様に通り過ぎると、ズルリと足を滑らせて、階段から小さな身体を浮き上がらせた。
目の前で起こった光景に、緑間は思わず手を伸ばすが、大量の荷物を抱えていたために、思う様に腕が伸びず、手は子供の服を掠めただけで掴む事が出来なかった。
(……しまった!!)と綺麗な顔を歪めていると、視界の端に高尾の姿が飛び込んできた。
(……かず…なり…?)
高尾は子供の腕を掴むと、自分の胸の中に柔らかな身体を包み込んで、ふわりと宙を舞う。
空中で身体を捻ると、見開かれた翡翠色の瞳と浅葱色の瞳が交わる。
その瞬間、高尾は微かに笑った様に見えた。
「………っ!!……和成ーーーーーーっつ!!!!!」
緑間が今までに聞いたことも無いような悲痛な叫び声を上げると同時に、高尾の身体は幼い子供を抱えたまま、エスカレーター下の地面へと叩きつけられた。
巨大なホールにザワザワとざわめきが起る。
緑間はエスカレーターを駆け下りると、横たわったままの高尾に駆け寄り「和成!!」と名を呼ぶ。
すると、腕の中に抱かれていた子供がのっそりと起き上がってキョロキョロと辺りを見回した。
他の夫婦達も「高尾!」「高尾君!」と次々に周りに集まる。
そして、最後にエスカレーターから無事に降りてきた青峰達も駆け寄った。
パンダのぬいぐるみの上に乗るように横たわり、ピクリとも動かない高尾を見て「………た、かお…くん…」と桜井の顔が青ざめる。
青峰達の背後から降りてきた子供の母親は、ブルブルと手足を震わせながら、状況を呑み込めずボーッとしている子供の腕を無理矢理引いて呼び寄せる。
「痛いよ!ママ!!」と泣く子供に「いいから!早く来なさいっっ!!!」と怒鳴り、抱きかかえて逃げる様にその場を去って行った。
赤司は横目でそれを確認すると「……涼太、今吉さん…。」と声を掛ける。
「…了解っス…。」
「…しゃーないな。1つ貸しやで。」と言って2人は人混みに紛れて行った。
緑間は焦りながらも高尾の状況を確認し、長い腕にしっかりと細い肩を抱きかかえながら、そっと身を起こすと「……ん…」と小さな声がして浅葱色の瞳が薄らと開いた。
「…和成!!」
手をとれば、弱々しい力で握り返してくる。
「……しん、ちゃん…あの子…は…」
「…あの子供なら大丈夫だ。母親が連れて行ったのだよ。」
「……そっか…よかった…。……っつ!!」
突如高尾が顔を歪め「…っ…あッツ…!!!」と苦しそうな声を出して、緑間の手が白くなる程に握り締めた。
その瞬間、高尾のズボンがジワリとシミをつくり、そのシミはどんどんと拡がって、温かな水は床にも流れ出て水溜りをつくっていく…。
「……!…これは…!!」
(……サラッとした性質に無臭の水…。…羊水か!!)
「……クソっ!!」と呟くと、緑間は赤司に振り返った。
「…赤司、直ぐに安西先生に連絡をして、オペ室を抑えてくれ!…それと、出頭医には俺がなると伝えて欲しい!」
「…わかった。設備の整った救急車も直ぐこちらに向かわせよう…。」
頷くと、赤司はジャケットから携帯を取り出して電話を掛けはじめた。
「…しん、ちゃん…」と腕の中で声がして、緑間は視線を落とす。
「……ごめ、んな…俺、あの子を…助けなきゃ…て、思った、ら…手が、でて…」
「……和成…。…分かっているのだよ…。」
額に張り付く黒髪を撫で、汗を拭うと、荒く息づく頬を大きな手で包み込む。
「……しん、たろう………赤ちゃんに…何か、あったら…おれ…どうしよ…う…」
細められた浅葱色の瞳から、ぽろりと涙が落ちた。
「……大丈夫だ。和成…。お前がオペから目覚めた時、隣には俺にそっくりな赤ん坊が寝ていると約束するのだよ。」
そう言って優しい笑みを向けると高尾は「……うん…。」と頷いて、安心した様に身体の力を抜くと、そのまま意識を手放した。
動かなくなった高尾の身体を、大きな身体が護る様にギュッと抱きしめる。
(………お前達を、決して死なせたりなどしないのだよ…。)
閉じていた瞳をゆっくり開くと、翡翠色の瞳は濃い光を宿して、強く揺らめき、全身から発せられる気迫の様なオーラに、周りの人々はただ2人を見守る事しか出来なかった。
to be continued………
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