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警告
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トントン……___
微かな音で目が覚めた。
どこから聞こえたかわからないが、確かに聞こえた。
トントン
あ、やっぱり。
どうやら、誰か来たらしい。
きっと、衛だ。
俺は、まだ何となく働かない頭と何だか気怠い体を動かして、ドアの前まで行った。
そして、何の疑いもなくドアを開ける。
ドアの向こう側にいたのは、衛では無かった。
俺は、慌ててドアを閉めるが、足が入ってきてドアが閉まるのを防いだ。
「シマたん。ひどいよ。おれの顔見て、今、閉めたでしょ。」
「いえ、すいません。今日、用事あるんで帰ってください。」
ドアをグイグイ引くが、三池先輩、自分で力強いと言うだけあって、なかなか閉まらない。
「いいのかなー、シマたん。俺とこんなことやってたら、何事かって、人が集まってくるよ。」
「どうぞ、お入りください。」
それはやだ。
俺は、アッサリと三池先輩を部屋の中に入れた。そして、廊下を確認して、ドアを閉めた。
もし、三池先輩が俺の部屋に来たことが知れたら、本当に面倒だ。
当の三池先輩は、俺の部屋にズカズカと入っていって、ソファーに腰を下ろした。
俺も仕方ないので、逆端に座る。
「わあー。シマたん!寝巻きだー。」
そうですとも、今さっき起きたんですから。
俺は、トレーナーにスウェットパンツという完全寝巻き状態で先輩を迎えてしまったわけだ。
三池先輩は、なかなかセンスのいい、体型によく似合った服装をしていた。そこまで派手じゃないのが、意外だった。
「もー、いい若者が、こんな時間まで寝てちゃダメだよー。」
ただいまの時刻、午前11時。
あと1時間すれば、1日の半分が終わってしまう。
でも、こんなになるまで起きないほど、疲れさせたのは、主にあなた方ですけどね。(嫌味)
「……で?何の用ですか。」
「ひどい!言い方に棘があるよ!仮にも先輩に向かって。先輩かなちい。」
なんか今日、めんどくさい、この人。
俺は、寝起きはいいが、起こされるのは好きじゃない。寝起きが良すぎるせいか、1度起きたら二度寝が出来ないからだ。
今日の予定だと、午後まで寝て、日付変わる前に寝るはずだった。
「用ないなら、帰ってください。」
「用ならあるよ。シマたん、どう?宝探し何とかなりそう?」
宝探し……。あまり思い出したくない現実である。
俺はため息を吐いた。
やっぱり、どう頑張っても、見つけられる気がしないのだ。
「その感じだと、どうやら、シマたんはおれたちの仲間になりそうだねー。良かった良かった。おれね、早くあそこからいなくなりたいの。」
「え?」
「あ、生徒会が嫌だとかじゃないからね。むしろ、おれね、あの生徒会メンバー好きだよ。みんな、1人だけ学年が違うおれに気を遣ってこないし。すごーく居心地がいいんだ。」
何だか、いつもの三池先輩と違う。
確かに、いつもみたいな口調だけど、雰囲気が……
「だからね、おれはあのメンバーに迷惑かけたくないんだ。おれが抜けたら絶対に慌ただしくなるからさー。それだったら、おれが認めて、なおかつみんなが認める子に、おれの後継者ってことで、すんなりとバトンタッチしたいんだよねー。」
「それは、心理作戦ですか?」
何だかいつもと違いすぎて、疑ってしまう。
三池先輩は、笑って、違うよー、なんていいながら、さらに続ける。
「シマたんならねー、きっとあのメンバーも気に入ってるし、頭良いから、任せられるんだけどー。」
「それは、買い被り過ぎです。」
俺は、きっと三池先輩が思うようなやつじゃない。
あのメンバーだって、俺のことをもっと知れば、きっと生徒会に入れたいだなんて思わないだろう。
「ところで、シマたん。宝探しとかの情報は、どこで仕入れたの?」
「えっと、隣の部屋の同じクラスの友達です。衛っていいます。色々、教えてくれて……」
そう教えてくれたのだ。
気のせいだろうか……俺が喋ってる途中から、三池先輩が俺に心なしか近づいてきてる気がする。
さっきまで1人分は開けて座ってたのだけど、今はその距離が縮められて、15cmくらいしかない。
俺が遠ざかる度に、どんどん近づいて来る。
「じゃあさ、そのマモくんに、ホモとかバイとか教えてもらった?」
黙って頷く俺。
ついに、ソファーの端まで来てしまったため、これ以上逃げられない。
「じゃあ、襲われる、は?」
またもや黙って頷く俺。
三池先輩は、真っ直ぐと俺を見つめてくる。
「その説明聞いて、シマたんはどう思った?」
「まだ死にたくないなって思いました。」
一瞬驚く三池先輩。目をぱっちりと開けて。
「そうか。シマたんは、襲われるっていうのは、命の危険にさらされることだと納得したのね。」
「はい。」
衛は、ヤられることだと言っていた。
つまり、ヤられる、殺されるっていうことだと解釈した。
「あはは。おれ、シマたんのそういうところ好きだよ。だから、」
三池先輩は、続きを言わなかった。
なぜなら、三池先輩はその続きを言う前に、自分の唇を塞いでしまったから……俺の唇で。
俺は、ビックリし過ぎて目を見開いたまま固まってしまった。
でも、三池先輩は離れなかった。
俺の体は、三池先輩に押さえつけられていて、身じろいでも動かない。
それどころか、唇がくっ付いたまま、ソファーの端から仰け反るような体勢で、とてもじゃないけど、これ以上の抵抗は出来なかった。
というか!息!息が出来ない!
「……んはっ……むん、ぅ……っんん!!」
苦しくて息をしようと口を開けたところ___三池先輩の舌が入ってきた。
ザラザラというか自分のものとは違う、生温かいものが入ってきて、自由自在に俺の口内を動き回ってきた。
「んぅっ」
空気が少しずつしか入ってこない。
すごく苦しくて、さらに唾液を飲み込むことが上手く出来ない。口の端から唾液が流れた。首を伝っているが、そちらをどうにか出来るほど今の俺に、余裕はなかった。
俺の前歯をなぞる、歯茎にザラザラしたものが当ってくすぐったかった。
「んっんっ……んんぅ」
ちょっと耳を塞ぎたくなるような声が聞こえるが、これは俺の口から出ているのだろうか。信じたくない。
「ん、ぅ……んんぁん……っはぁ」
やっと、三池先輩の口が俺から離れた。
そして、三池先輩は俺を押さえつけてた手を離した。
俺は、短い呼吸をして、空気を吸うのに必死だった。そして、首に伝った唾液をトレーナーの袖で拭う。
三池先輩は、俺から口を離した後、すぐに俺に背を向けた。だから、今、三池先輩がどんな顔をしているかわからない。
俺より細い腕、俺より小さい手、俺より白い体……三池先輩はなんでこんなことをしたんだろう。
俺は、まだ何となく力が入らない体に、なんとか力を入れて、しっかりとソファーに座り直した。
何か、三池先輩に言うべきか、迷っていた。
衛に、この学園の同性愛者……ホモとかバイとかの話は聞いて、理解していた……つもりでいた。そして、そのホモとかバイとかが、この学園のほとんどを占めているというのも、理解していた……はずだった。
だけど、どこかそれは現実味がなかった。
衛もバイだとか言ってたけど、最初におデコにキスをされたくらいで、他に衛がバイだという気配はなかった。
うちのクラスのやつも、他のクラスのやつも、もしかしたら先生も、生徒会役員も……もちろん、三池先輩も、ホモとかバイとかの分類に入っているっていうのは、現実味がなさすぎて、実感というものもなかった。だから、理解していると勘違いしていたのかもしれない。
「ねえ、シマたん。おれ、シマたんのそういうちょっと天然ぽいところ好きだよ。だから、ごめんね、これは警告なんだ。」
「……警告」
「そう、警告。シマたんが、このさき傷付かないための警告。シマたんさっき、襲われるっていうのは、命の危険にさらされることって解釈したって言ったよね。」
俺は、黙って頷いた。
三池先輩は、相変わらず、後ろを向いたままで、どんな表情をしてるかわからない。
「だけどね、シマたん。それは、間違ってる。襲われるっていうのはね、これ以上のことをされるってことだよ。つまり、強姦。わかる?シマたん。少しは、意識しないと。」
強姦。
襲われる、ヤられる……そうか、そういうことか。
三池先輩は、俺のこのとんちんかんな解釈を、半ば強引に真っ直ぐと正しい解釈にした。
「警告って言っても、おれは真面目に話してわかってもらうことも出来たんだ。でも、それをしなかった。」
三池先輩が俺の方を向いた。
そして、笑顔で言う。
「怒っていいよ。志真くんに、その資格はあるから。」
志真くん、三池先輩は、俺を初めてそう呼んだ。
三池先輩の笑顔が、何だか心苦しかった。
いつものちゃらんぽらんな笑顔じゃないじゃないか……
三池先輩は、ソファーから立ち上がって、背伸びをした。
「さっ。おれは帰るよ。シマたん用事あるんだよねー。長居してごめんねー。」
そう言って、三池先輩はドアに向かって歩いていった。
俺は、三池先輩に何か言わなきゃと思った。
でも、何を言ったらいいのか、わからない。
三池先輩が遠ざかっていく足音が聞こえる。
「ミケ先輩!」
自然と声が出ていた。そして、ソファーから立ち上がって、先輩が見える位置まで移動した。
先輩は、ドアに手をかけた状態でこちらを驚いたように見ていた。その大きな目が、見開かれていた。
「あの……すみませんでした。」
先輩は、きっと賢い人だから。
「またね、シマたん。」
そう言って、笑ったミケ先輩は、ドアを開けて出て行った。その顔は、笑っているはずなのに、何だか泣いているように見えた。
俺は、その場に立ち尽くしたまま動くことが出来なかった。足に根が張ったようだった。
俺は鈍い。それは、よくわかっている。
また、繰り返すのか……
頭がいいのと、賢いのとは、全然違う。
俺は、つくづく自分のそういうところに嫌気がさしていた。
何だか、唇が痛かった。
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