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生徒会室爆破事件 心配
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実際、会長は俺のことを見ていた。
だけど、俺は会長の視線を無視して、帰る支度をしていた。帰る支度と言っても、カバンを持って生徒会室から出るだけだ。
「じゃあ、会長。お疲れ様です。」
「おい。ちょっと待て。」
生徒会室から出て行こうとする俺を、会長は引き止めた。
そして、あろうことか、会長は自分の席から立ち上がったと思ったら、俺の方へ来て、俺の腕を掴んで、無理やりソファーの方へ俺を投げ飛ばした。
大袈裟な、と思うだろうけど、これは大袈裟ではない。本当に、投げ飛ばしたのだ。
俺は、ソファーに倒れこむ形になる。
「いたっ。ちょっと、会長。何なんですか。」
すぐに抗議するが、会長は怖い顔をしたまま、俺が倒れているソファーに近づいてきて、俺の上に乗ってきた。そして、俺の顔の横に両手を置く。
会長の怖い顔が目の前に、見下ろされてる。ていうか、これってまるで……
押し倒されてる。
俺は、自分の身体の体温が一気に暑くなっていくのと同時に、恐怖を感じた。
恐怖。
それを自覚してしまった瞬間から、俺の心臓の鼓動と息遣いが早くなっていく。
会長も、俺のそんな様子に不思議に思ったのか、俺の上からどいた。
でも、俺は起き上がることが出来なかった。
怖い。
「おい、どうした。」
さすがに心配したのか、会長の心配そうな声が聞こえたが、俺はそれに応えることが出来なかった。
ハァハァと息をして、変な汗が出てくる。そして、段々過呼吸になっていく。
こういう状態のことを、世間一般的に……
「お前……トラウマになってんのか。」
そう。トラウマ。
俺は、最近ある条件の時、こういう風になることがある。それは、例の宝探し事件の1週間ほど後から現れた症状。
暗い部屋。
最近、明るくないと眠れなくなった。
真っ暗なところにいると、何故か過呼吸になる。
そして、上に乗っかられること。
あの時の恐怖と絶望が、未だに俺の中に蘇ってくるのだ。
「すみ……ません。少し……少ししたら……治り、ます、から。」
しばらく、ポケットに常備している袋の中で、深呼吸を頑張ってして、過呼吸が治り、会長の方を見ると、会長がさっきの怖い顔ではなく、眉を下げて心配そうに、俺を眺めているのを見て、俺はドキッとした。
「1週間経った頃から、俺……暗い所と上に乗られるの、ダメなんです。すみません。気を悪くしないでください。」
会長には、嫌われたくなかった。
「いや、今のは俺が悪い。すまなかった。今度から考慮する。」
びっくりするくらい、会長の声が柔らかくて、今度は違う意味で、身体が熱くなってきた。
ダメだ。会長の顔が見れない……。
「だけど、1つだけ質問に答えろ。」
何とか、顔の熱を追い出し、手で少し顔を隠しながら、会長の顔を見たら、今度は真剣な表情でこちらを見ていた。
さっきの怖い顔と雰囲気が似ていた。
「いつ、山河陸と知り合った。」
「え……」
いつ、と言われても……。
俺は、会長の質問の趣旨を考えた。
風紀委員長も、俺が呼んだ人物の中に、山河がいることを1番に指摘していた。
「それは、俺たちが危険人物だから、会わせるのがいやだ、とか、そういうことですか。」
「質問に質問で返してくるな。というか、お前、知ってたのか。」
危険人物とか、そういうことに関しては、衛が一通り教えてはくれた。
だけど、衛ももう会長たち側の人間だ。全てを俺に話してくれたわけじゃない。
俺の憶測だけど。
「俺は、生徒会の監視下に置くために、勧誘されたんですか。」
自分が思っているより低く冷たい声が出た。
俺は、俺が危険人物としてみなされる理由がイマイチわからなかった。
俺は、普通の学生だ。
会長は、しばらく黙っていたが、観念したように言った。
「確かに、お前が危険人物だから、勧誘したのもあるが、基本はお前に説明した通りの理由だ。」
ミケ先輩の代役。
それが、俺が教えてもらった理由だ。
成績が優秀だから、勧誘をした。それが、俺が教えてもらった理由。
「だけど、確かに、お前が危険人物だから、勧誘したという事実も、否めない。」
正直に答える会長。
「あの……俺、会長とかみんなが思ってるような奴じゃないんですけど。普通の学生ですし。」
「俺の目から見ても、お前は確かに普通の学生に見える。」
「だったら___」
「だけど、それ以上に、お前は俺たちに隠してることがあるだろ。」
「か、隠し事している生徒は、他にも沢山いるでしょう。」
「お前の隠し事は、俺らが引っかかるくらいの隠し事だ。俺らが引っかかった内容は、お前が奨学生じゃないのに、なんでうちの学校に入ってきたか、ってことだ。」
「それは、親が頑張ってくれて……」
「うちの学校は、一般的なサラリーマンが、少し頑張ったくらいで入れるような学校じゃない。それに、お前はA組に入ってるんだ。入学後に、さらに学校に寄付金をしたことになる。」
俺は、会長に返事をすることが出来なかった。
これを、話すにはまだ早いし、というか、卒業するまで話す気もない。衛にも、誰にも話す気なんてないんだ。
だけど、どうしても会長に言う良い言い訳が、思いつかない。
俺が黙っていると、会長は大きなため息をついた。
「お前は、そうやって何も言わない。秘密にするんだろ?だけどな、お前が何も言わないということは、その分俺たちと距離があることになる。俺たちは、お前が隠し事をして、学園に何らかの影響を起こしかねない、と思ってるうちは、お前を危険人物として扱うしかない。だから、俺たちが、お前と山河に接点があることに、不満を抱くのも仕方ないと思うが?」
会長の言うことは、全て正しかった。
生徒会が、俺をどれだけの危険人物だと思っているかは、測れないが、俺を完全なる仲間というより、管理下に置いた、ということに間違いはないだろう。
すると、会長は、黙って下を向いている俺の頭に手を置いた。
そして、その手をゆっくりと動かす。
これって、撫でられてる……
宝探し事件の直後に、会長に抱きしめられながら泣いてしまったとう失態がある。
しかも、一度会長の手を払ってしまったという事実も。
何にしても、俺は会長が俺の頭を撫でる理由が見当たらなかった。
「生徒会としては、お前が山河と接点があることに懸念があるのは、本当のことだ。だけど、俺個人としては、お前に何か危険が生じるかもしれないという、心配の方が大きい。今回のお前に対する予告状だって、俺はどうにかしてやりたいと思ってる。」
会長に頭を撫でられてる。
さっきまでの怖く何かに激怒したような会長の声じゃない。
俺は、そのギャップに混乱していた。
会長は、俺が危険人物のくせに、山河と接点があることに、怒ってたんじゃないのか?
俺は、会長がわからなかった。
なんでこういうことをするのかも、なんでこういうことを言うのかも、全部わからなかった。
「なんで……なんで、そういうこと言うんですか。誘導尋問ですか。俺は、言いませんよ?」
「素直になれよ。本当のことだ。俺は、そんなやつじゃない。誘導尋問なら、ミケの得意分野だ。一緒にするな。」
クリーム色の髪の下から、宝探し事件の後に俺に見せたニッコリとした笑顔が見えた。今度は、目をそらさなかったが、顔がどんどん熱くなるのを感じた。
顔が赤くなってないか心配だ。
「俺は、本当に皆さんが思ってるような、そんなに恐れるような奴でもないですし、この学園はわりと好きなので、何かをしようとは思いません。だけど、まだ全てをお話しすることもまた出来ません。秘密、ということでいいですか?」
俺は、恐る恐る会長を見上げる。
会長の手は俺の頭に置いたまま、だから俺は上目遣いになってしまったのだが、にらんでいると思われてないだろうか。
顔はあまり赤くはならない方だけど、赤くなっていたら恥ずかしい。
「お前は、そうやって結局秘密にするんだよな。怒る気も失せるわ。」
会長の手が俺から離れて、会長は俺の正面に立ち、俺の目をしっかりと見つめた。
俺は、会長の目を見返したが、恥ずかしくて大変だった。
「志真、気を付けろよ。」
優しい声、綺麗な目、大きな手、クリーム色の髪。会長は、なんでこんななんだろう。
俺は、会長の目をしばらく見つめたが、耐え切れなくなって目をそらした。
会長への想いを、あからさまに外に出せるほど、俺は許された身でもなければ、好きな人の目を見て喜べるほど、許された身でもない。
ここにいると忘れそうになる数々のこと。
いや、忘れてしまいたくなる数々のこと。
それを、忘れずに思い出せてしまううちは、やっぱり自分の想いをどうにかすることは、許されない。
それでも、目の前で微笑んでる会長と一緒に、微笑むくらいは許されるんじゃないだろうか。笑うのがダメでも、微笑むくらいなら……。
結局、会長が微笑んでいるのを見て、そらして、見て、を繰り返して、終わってしまった。
生徒会室から出るときに、会長は再度、俺に注意を促した。
俺もそれに応えたけど……
まさかなと心の中で思っていたことが、本当に起こるなんて、この時、俺も会長も思ってなかった。
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