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生徒会室爆破事件 告白
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「……なんで、逃げる、んですか。」
「お前が……追いかけてくるから……だろ。」
結局、屋上まで追いかけっこしました。
結果、息上がってます。
「やっぱり、君が……犯人……?」
「犯人ってなに。意味わかんないんだけど。」
白々しい言い方が、はいそうです、と言っているようにしか聞こえなかった。
目の前にいる人物は、いたって普通の容姿。いや、悪い意味じゃない。むしろ、俺の周りにいる人たちが目立つ容姿なだけだ。
だから、目の前にいる人物とは、同じ匂いを感じる。平凡同士ってことだ。
「……田中啓太(たなか けいた)くん。君が、生徒会室を爆破するとかいう……ふざけた予告出した犯人だよね?」
俺は、努めて冷静を保っていた。
それに、やっぱり初対面と話すのが苦手だ。前よりはだいぶマシになったのは、きっとこの学園の人たちの影響だ。みんなヅカヅカ人の領域に入ってくる人たちだから。
田中啓太。1年C組。
中等部から通っている奨学生。
今回のテストの結果は4位だった。
GWは帰省してないし、西棟に訪れている。
「田中くんさ、奨学生でしょ。もしかして、俺が順位に組み込んだことで、学園側の給付型奨学金が受け取れなくなったとかじゃなくて?」
この学園には、特に優秀な生徒を選んで、学費を免除する給付型奨学金がある。
条件は、定期テストで3位以内に入ること。
さらに、学費だけでなく、制服のお金も負担してくれて、寮に入るためのお金も他の人より半額になる。
ミケ先輩の情報網によれば、田中啓太は、中等部の3年間、定期テスト3位以内をキープして、学費を免除して貰ってたらしい。
そしたら、高等部に上がった途端、ポッと出の不良とわけわらないやつに、アッサリトップ2を取られてしまったというわけだ。
「名護は、3年間で、越えられないことはわかりきってた。あいつには、勝てない。でも、それでも俺は、2位をキープしてれば良かったんだ。」
「……でも、俺と山河が現れた。」
田中は、俺のことをキッと睨みつけた。
「そうだ。お前たちが、いきなり現れて、平穏を奪い去って行ったんだ。新入生代表は、本来なら名護がやるべき役目だ。」
「俺と山河の入試成績は、どうやって知った?」
「俺は、優等生だ。聞けば、大抵のことは大体の先生が教えてくれる。」
本当に、ここの学園の個人情報管理に疑問を持つ。大丈夫なのか。ここは。
まあ、でも、俺が新入生代表をやった時点で、おかしいと思ったということは、もとを辿れば、全て浜口さんのせいってことでいいんじゃないだろうか。
そうは、いかないらしい。田中は、なおも俺を睨みつけていた。
「生徒会にお前が入ったって聞いて、驚いたよ。新入生代表ってそんな権利あるんだ。」
「いや、まあそうかもしれないけど……」
そこは、否定出来なかった。
実際、俺が生徒会に呼ばれたのは、何故か危険人物扱いされているってことと、俺が新入生代表だったっていうことからだ。
「それだったら、中等部で生徒会長やってた名護がやるべきだったんだ。なんで、役員様たちも、こんな奴選んだんだか。」
さっきから、気になることがある。
田中は、確かに俺が気に入らないということはわかった。でも、田中が憤りを感じているのって……
「君さ、もしかして……名護くんのこと好きなの?」
「ッ!!」
あからさまに動揺して、顔を真っ赤にする田中。
「ばっ馬鹿じゃないの!別に、そういうわけじゃ……」
俺も、この学園に来て、1ヶ月とちょっと経つ。
大体ここの仕組みにもなれてきた。
同性愛とか普通の、この学園の社会じゃ、田中が名護を好きになるのなんて、なんの疑問も持たない。
かく言う俺も、会長のことを普通の目で見てるか、と言われたら素直に頷けないわけだし……
「とにかく!生徒会室には、もう爆弾仕掛けてるから。俺、爆弾とかそういう配線するの得意だから、作ったからね、マジで。このスイッチ押して、誰かが生徒会室のドアを開けたらドッカンだね。」
顔を赤らめたまま、田中は携帯電話くらいのリモコンを俺に見せ付けた。
田中は、情報によると確かに頭が良いらしく、爆弾の一つや二つ作るのなんて、簡単なことだ。
そして、熱くなった頭のまま、田中はあろうことかスイッチを押したのだ。
俺は、今までの冷静さを失った。
これは、やばい。
「焦ったか?でもな、俺も同じくらい焦ったんだよ。奨学金貰えなかったら、俺はこの学園を去らなきゃいけない。俺は、お前が約束を守ればスイッチなんか、入れなかったさ。お前が、悪いんだよ。」
この時の俺の表情とか、いつにも増して無であった。それに、自分でもわかってたけど、俺は憤りを感じていたのだ。
「……俺が、約束を、守らなかった?」
俺の様子に一瞬怯んだが、田中は尚も言い返してくる。
「……ああ!お前が、約束を破って、勉強なんかするから。」
「俺がいつ約束を破ったんだ?」
「約束を破ったから、勉強したから、1位になったんだろう!」
「本当にそう思うのか?」
低い声が出る。
自分の喉から出てる声がいつもどのように聞こえているかはわからない。でも、明らかに今、俺はびっくりするくらい低い声を放った。
俺の低い声に、田中も怯む。
「俺が、生徒会室っていう大事な場所を、そうやすやすと裏切ると思うか?そのための約束を、破ると思うのか?」
「……だ、だから、お前が1位になったのは……」
「君さ、GW何してた?」
突然俺の声がいつも通りになったのに驚いた田中は、すぐには答えなかった。
でも、俺は笑顔で待つことにした。笑顔。これは作り笑い。会長ほど胡散臭い完璧な作り笑いは出来ないけど、それが返って相手を怯ませることが出来るのを、俺は知ってる。
「俺はね、勉強してたよ。ずっと。」
そう。
俺がGWのほとんどの時間をかけてやっていたことは、テスト勉強。
本当は、気晴らしとか、最初が肝心とか、そういう目的でやったのだけど、それが役に立った。
「でもさ、俺はね、凄く欲張りな人間だ。」
確かに、勉強はした。
でもそれは、GWまでに終わっていた範囲と、自分の知識にある予習だけだ。
授業を聞いて、出る範囲を勉強するのが、一番良いに決まってる。
今回は、それが出来なかった。
「俺はね、あんな4点の失点でさえ、悔しくて仕方ない。俺からしたら、君のまずは自分でなんとかしようとしないやつ、大嫌いだ。」
笑顔で言ってやると、田中はその場で座り込んだ。
俺は、田中を見下ろす。
今、田中は俺を見てる。少し目が赤いのは、涙を流す直前ということだろうか。でも、泣きたいのはこっちだ。
「……はぁ。あのさ、そういうことはさ、自分でも精一杯勉強頑張った後にさ、生徒会に掛け合って、奨学生を5位以内に検討してほしいと言えばよかったんじゃないの。君、優等生なんでしょ。誰も、悪いようには言わないと思うよ。」
わりと、奨学生が3位以内っていうのも、厳しいものがある。この学園にとって、優秀な人材は貴重だ。4位もなかなかの順位だし、それを逃すのは、学園的にどうなのだろうか。
そもそも、俺も山河も奨学生ではないのだし、世間体的に、田中を切ったら、大変なことになるだろう。
「……そんなことして、生徒会は何とかしてくれるのか。」
「生徒会が、理事長に直談判するのは、わりと簡単だよ。理事長と親しい人もいるしね。」
ミケ先輩あたりは、何とかしてくれるだろう。
理事長とどんな関係かは、わからないけど。
会長だって、たまに理事長室に呼ばれているわけだし。
田中が項垂れる。
こいつは、本当に頭が良いのだろうか。
そんなこと、きっと衛でも思いつくのに。(ひどい)
俺は、そんな感傷に浸ってる田中を、無理やり胸ぐらを掴んで、上を向かせた。
「いいから。早く、爆弾解除してよ。」
「うっ……解除、は、教室の鞄の、中。」
教室の中?!
ここから少し離れてるではないか。
俺は、その時何故か会長の顔が頭に浮かんだ。
そういえば、会長はさっき会議に呼ばれていた。会長は、会議の後、絶対に生徒会室に行く。今回、会長が、爆破なんてイタズラだ、と高を括って、生徒会室に入ろうとしてたら……
それは、非常にまずい!
「君!急いで、解除してきて!早く!」
俺は、田中を離して、すごい剣幕でそう命じた。田中は、条件反射のように、屋上から出て行った。解除をする前に、会長が生徒会室に着いてしまったら、大変だ。
それに、解除ってどれくらい時間がかかるのだろうか。
考えていても仕方がない。
俺も、屋上から西棟へ向かって走り出した。
会長が、生徒会室に向かっていないことを祈って。
まず、階段をものすごい勢いで下った。
何段飛ばしたか……
幸い、テストの結果を見た生徒のほとんどは、寮や部活に行ったため、南棟には残ってなかった。
そして、西棟へ向かうが、いつもなら、あれ?どっちだったっけな。と一瞬戸惑いながら向かう西棟だが、今日はそんなこと考える暇もなく、西棟へと走り出していた。
実は、この辺の記憶はない。
……そして、俺が生徒会室の立派な扉を確認できる位置に来た時に、会長がいることがわかった。ちょうど、会長は、扉のノブに手を掛けていた。
「かい、ちょう!!」
息切れを起こしていることを、声に出してみて初めて気付いた。
「ん?志真か。お前も生徒会室に用があるのか?」
なんて言いながら、こちらを向いてノブを回し始めてしまった会長。
どうしよう。もう考えてる暇はない。
会長が、驚いて確実に手を止める方法。
なんか、無いのか。
「会長!好きです!」
「へ?」
会長は、驚いたのか動きを止めた。
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