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生徒会室爆破事件 決着
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完全に動きを止めたと言うより、固まった会長の手を俺は掴んで、とりあえず扉から離れさせた。
会長は、ひたすら俺のことを見ていた。
「唐澤!解除、した!」
そんな時に、田中が息を切らせながら、遠くの方から大声でそんなことを言ってきた。
手には、何やら黒いリモコンのようなもの。
どうやら、教室でそのリモコンを取って、こっちに来る間に解除したのだろう。
俺は、何だか力が抜けてしまって、その場にしゃがみ込んだ。
さっきまで、固まっていた会長が、今度は田中を見て怪訝な顔をした。
「おい、志真。どういうことだ。」
「すみません、会長。会長に動きを止めてもらうために、とっさにとんでもないこと言ってしまいました。」
俺は、チラッと田中の方を見た。
田中は、申し訳なさそうな顔をしている。
「実はですね、会長。____」
俺は、さっき田中から聞いた田中がこんな馬鹿げたことをした理由を、会長に全て話した。
もちろん、田中の至らなさから起こったことというのを伝えた。
「と言うことは、ここにいるこいつが、この騒動の黒幕ってことだな。」
「はい、まあ、そうなります。」
田中は、もう無理だと思っているのか、下を向いてうな垂れていた。
会長もかなり厳しい顔をしていた。
「自分の利益の為に、一生徒を脅したというのは、生徒会的には許すことが出来ないな。志真は、確かに生徒会だが、贔屓目なしにも、お前がしたことは、とんでもないことだ。それは、わかってるのか。」
会長は、田中の前に行き、田中の目を見て言った。
田中は、会長から目を反らせなそうだった。
俺は、今会長がどんな表情をしているかは見えないけど、きっととんでもない顔をしてる。
こちらからは、クリーム色の髪しか見えないけど……
「……わかってます。もう、覚悟は出来てます。」
絞り出したような声で田中は言った。
会長は、しばらく何かを考えているようだった。
俺は、そんな2人のやりとりを黙って見ていた。
「覚悟、か。じゃあ、今回の処分は俺じゃなくて、志真に決めてもらおう。」
「はい?」
「だから、お前が決めろ。そして、処分言い渡したら、爆弾早く退けるぞ。俺は、生徒会室でやりたい仕事がある。」
突然、会長がため息を吐きながら、俺に処分決定権を投げてきた。
俺は、会長が何を考えているかはよくわからないが、ここで変な情けをかけるのは、生徒会的にはよろしくない。でも、退学とするには、まだ情状酌量の余地がある。
「田中。今回の件は、やろうと思えば、他にもっと正しいやり方があったと思う。今回のやつが1番やっちゃダメだ。でも、もうそれは、充分分かったんだよな?」
黙って頷く田中。
「じゃあ、田中は今から1週間、テストで下から5番以内のやつと、俺の知り合いのために、勉強会を開いてくれ。いいか、そうやつらは、大体基礎がわかってない。俺も監督として参加する。人に教えることで、自分の理解がより深まる。」
俺の提案に、会長が吹き出した。
「な、何笑ってるんですか?!」
「いや、お前、それ結構厳しいだろ。」
「いいんです。俺、結構怒ってるんですから。」
「まあ、お前がそれでいいならいいけど。じゃあ、俺はその勉強会の会場を提供しよう。会議室を1つ開けとく。必要なら、先生方にも話を通しておこう。」
こうして田中は、事実上のお咎めなしとなったのだが、その後、爆弾を片付けている時に、とんでもなく厳ついものが出てきて、俺と会長にまた説教されたのは、言うまでもない。
そして、その後、何故か流れで、会長と生徒会室にいることになってしまったのだが___
カチャカチャ………
会長が打つパソコンのキーボードの音が、生徒会室に鳴り響く。
今日は、事件のこともあるし、テスト後だから、きっと誰も来ないだろう。
というか、会長、メガネかけてるし……
さっきのとっさのこととはいえ、あんな告白みたいなことして、大丈夫だっただろうか。
会長が、気にしてなかったらいいのだが。
最近、やっと役員の人たちと距離が縮まった気がしたんだ。
今、俺の一感情だけで、今の距離が遠ざかるようなことはしたくない。
どれくらい経っただろうか。
会長がパソコンを打つ音が消えると、会長がメガネを取って、こめかみの辺りを指で押しながら、ため息を吐いた。
「お前さ、あれで良かったのか。」
「どういうことですか。」
会長は、俺の座っている席の目の前の席に移ってきた。本来なら、兄先輩の席だ。
会長の顔がよく見える。鼻の目の横あたりに、メガネの跡がついていた。
「だって、ミケに頼んでまで、犯人探してたんだろ。そして、犯人に自白させたのに、結局は特に咎めなしだろ?」
「いいんですよ。ちょっと、考えちゃったんです。俺が、奨学生だったらって。」
会長の眉間にシワがよった。
俺は、慌てて続ける。
「あ、でも、同情とかじゃないです。田中は、あんなことやりましたけど、爆弾とかそういうの作れたり、定期テストの点数も良いです。爆弾ではなく、違う方向に頭を使ったら、いずれ有名になって、この学園に利益になるでしょう。ここで、切るのは勿体無いです。」
会長がため息を吐いた。
「そんなこと考えてるのかよ。最近、ミケに似てきてないか、お前。」
「そんなことないです。ミケ先輩に似てるなんて、おこがましいです。あ、あの、会長。」
「何。」
「色々、ありがとうございました。ミケ先輩から、会長がミケ先輩のオトモダチと話を通すのに、力を貸してくれたと聞いたので。」
「……はぁ。ミケのトモダチは、錚々たる面子だよ。名前出せないくらい。気にするな。どっちにしても、生徒会室は無事だったんだ。」
ミケ先輩の錚々たるトモダチのことを知りたいのだが、俺はとっさに聞くことが出来ずに、2人の間に沈黙が流れた。
会長と目が合うと、そらせなくなった。
いつもそうだ。
会長の目は吸い込まれそうになる。
「志真。お前、何で色々隠し事してるんだ。」
会長がいきなりそんなことを聞いてきた。
隠し事、と言うのは、俺がみんなに言ってないことのことだろうか。
色々、と言う会長は、一体俺のどこまで知っててそう言うのだろうか。
本当は、会長特権で全部知っているのだろうか。
いや、そんなはずはない。
俺の秘密を知っている人は、きっとここにはいないから。
「……秘密じゃダメですか。」
「ダメって言っても、秘密にするんだろ。」
「……今は、言えないんです。」
「いつかは、言う気があるのか。」
ああ言えばこう言う会長。
衛でさえ、ここまでしつこくは聞いてこなかった。
衛は俺が言いたくないと意思表示をすれば、それ以上の詮索はしてこなかったから。
「お前が隠してること、俺たちが知ったら、お前に対する態度が変わるようなことなのか。」
俺が隠していること……
「……わかりません。でも、そうなる可能性はなくも無いです。俺は、それが少し……怖いのかもしれません。」
全てを知られるのが怖い。
知られて態度が変わり、離れていくのが怖い。
この居心地いい場所がなくなるのが、怖い。
同じことを繰り返していくのが怖い。
近くにいる大切な人が傷つくのが怖い。
「お前がそこまで言うなら、これ以上今は、詮索しない。だけど、お前が生徒会の役員になっている以上、いつかは教えてもらうかもしれないからな。」
そこで、いきなり会長の顔が近づいてきた。
その距離数センチ。
「覚悟しとけよ。」
ニヤリと笑う会長に、顔が熱くなる。
こ、この人は、まったく……
俺は、椅子を引いてとりあえず会長から離れた。
顔が赤くなってないか心配だったので、下を向いた。
「覚悟なんて……しませんよ。」
数センチ。
あと数センチで、くっつくかと思った。
俺は、そのあと、顔の火照りをなんとか抑えるのに、苦労した。
そんな俺の苦労を知ってか知らずか、会長はあの胡散臭い笑顔でない笑顔で、ひたすら笑っていた。
こんな日々が続いたらいいな、と思った。
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