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フリをしていると
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俺たち双子は、どちらかが優秀だと、どうしても片方は比べられる対象となってしまう。
あなたも頑張りなさい。
なんで、あなたは出来ないのかしら。
なんで、大人は俺たちをそんなに引き離しにかかるのだろうか。
俺たちは2人でひとつ。
他の誰にも干渉しえない2人だけの気持ちがある。
それを俺たちの周りにいる大人は、理解しようとさえしない。
そんな大人を1番に見離したのは、
俺じゃなくて、翼だった___
図書室に入って奥のテーブルを見ると、翼が座って勉強をしていた。
俺は、別に必要はないのに、バレないようにそっと近付いた。
翼は、人の気配にわりと敏感だ。
しかも、残念ながら俺となると、見なくてもわかるらしい。
「何しに来たの。」
ほら。
こっち見てもないのに、足音を殺して、気配を消して、こっそり近付いた俺を、俺だと判断してのこのセリフ。
目がもう1つ付いているんじゃないだろうか。
俺は、翼の質問に答えずに、黙って立っていた。
翼は、そんな俺を見兼ねて、ため息をついて自分の前の方を指差した。
これは、俺の前に座れ、ということだ。
俺は、その指示に従って、翼の前に座る。
翼は、国語の問題集をまた解き始めた。
俺は、それを眺めているだけ。
「そういえば、ついさっきまで志真くんも、図書室にいた。」
「あ、俺も今前の廊下で会った。」
「名前で呼ばれた?」
「うん。ビックリしたよ。椿先輩なんて、滅多に呼ばれないし。」
「良かったね。」
またしばらく沈黙。
いつもならこのくらいの沈黙なんてことないのに、今日は何だか耐えられなかった。
「翼、まだ怒ってるの?」
答えない。
「朝のこと、怒ってるでしょ。」
答えない。
「ごめ____」
「謝るなよ。」
俺が謝ろうとしたら、翼がもの凄い勢いでこちらを睨み付けてきた。
今日の朝。
俺たちは、喧嘩をした。
どんな喧嘩かと言うと、翼の成績についてのこと。
翼は、今回のテストも悪い成績をとった。
俺たちの家は、母親も父親も周りの奴らも、俺と翼をよく比べる傾向があった。
今回も、俺は電話先で翼のことについて、母親から散々言われたのだ。
『なんで、翼くんは、椿ちゃんみたいに、良い成績を取れないのかしら。』
『翼くんも、椿ちゃんを見習えばいいのに。』
『翼くんは、もっと頑張らなきゃダメよ。椿ちゃんからも言ってあげて。』
『なんで、椿ちゃんは出来て、翼くんは出来ないのかしら……』
『それに、翼くんは、部活動もしていないし。内申書に何を書いてもらうつもりなの。』
今でも、思い出すだけで、イライラする。
母親の言葉は、きっと母親個人が思っている言葉じゃない。家の中で、そういう話を父親や周りの大人としてるんだ。
うちの両親は、決して悪い人たちではないし、俺と翼、平等に可愛がっている方だと思うけど、どうしても俺たちを比べる。
どちらかを可愛がるってわけではないが、ニコニコしながら、比べてくるのだ。
それは、小さい頃から変わらない。
「母さんに言われたんでしょ。椿の言った通りじゃん。朝はイライラしてたけど、今はこの通り、勉強してるだろ。」
朝、俺は母親の電話が終わった後、翼の部屋へ言って、八つ当たりをしてしまった。
でも、翼は言い返すわけではなく、ただ「俺の人生を誰かに決められる筋合いはない」と言って出て行ってしまった。
俺は心底ムカついた。
散々言われるのは俺なのに、なんでそんなこと言うんだ、と。
でも、違う。
昔は逆だった。
「……翼も、昔はこんな風に言われてたの?」
翼は答えない。
だけど、それは逆に肯定の意味に捉えられる。
昔、俺は身体が弱くて、学園も休みがちだった。
翼は元気で、頭も良くて、俺とは正反対だった。
母親は、俺の前では、俺の身体の心配をしていたけど、翼の前ではきっと今の俺のように、散々俺のことを言っていたのだろう。
中等部2年の頃。
俺の身体の弱さがなくなっていくのと同時に、翼は勉強も部活も辞めてしまった。
勉強なんて、前は毎日のようにやっていたのに、それを機に授業中さえも寝てたり、他のことをしたりするようになった。
先生に怒られることも多々あったけど、翼は気に留めてなかった。
翼は、多分嫌気がさしたのだろう。
俺と比べられるのが。
だから、翼は自分が何も言われないように、勉強をしたくないフリをしているのだ。
本来は勉強は嫌いな方じゃないはずだ。でも、よく勉強をする志真くんを罵ったり、真面目な志真くんを馬鹿にするのは、俺と比べられていた頃の自分を思い出すから。
「もう……勉強したくないフリなんて、しなくていいのに。」
翼は、今の俺がそうのように、母親に散々に言われる俺を見てられなかったのかもしれない。
だけど翼は不器用だから、俺みたいに面と向かって、俺に言うことが出来なかった。
だから、翼は比べる大人を見離すように、勉強も部活も辞めたのだ。
「……フリをしてると、いつか本当になるんだよ。俺は今、本当の馬鹿だ。」
そして、翼は顔を上げた。
「でも、俺は俺だ。椿は椿。母親の電話は申し訳ないと思ってる。でも、俺はもう決めたから。」
あの家は、継がないって。
翼はそう言って、また問題集に目を向けた。
戸牧の家を継ぐのは、翼か俺だ。
本当は、長男である翼が継ぐべきところだけど、翼はそれを放棄してしまった。
でも。
「俺……翼がいないとダメなんだ。翼がいないと……」
小さな声で言ったから、翼には聞こえたのかはわからない。
でも、俺たちは2人でひとつ。
どちらかがいない人生なんて有り得ない。
「俺の人生は、翼の人生。翼の人生は、俺の人生だよ?俺は……翼じゃなきゃイヤだ。」
「何だかプロポーズみたいになってる。」
そう言って、翼は笑った。
そして、俺の右手に自分の左手を乗せる。
「……ごめんな、椿。いつも、ごめん。」
翼はズルい。
いつも、ズルい。
喧嘩をすると、絶対に先に謝らせてくれない。それが例え、俺が一方的に悪いことであっても。
「椿。今日……一緒に寝る?」
昔みたいに。
「でも、もう狭いじゃんベッド。」
2人とも大きくなって。
「いいの、いいの。決定ね。」
喧嘩した日は1つのベッドで一緒に寝た。
次の日には、喧嘩のことなんて忘れる。
「俺を寝相で落とさないでね。」
「大丈夫。くっついて寝るから、落ちる時は2人ともだよ。」
笑い合う。
俺たちは、双子。
大人を1番に見離したのは、俺じゃなくて翼。
でも、俺を1番に理解してるのも、翼。
そして、翼を理解してるのも、俺。
一緒に寝たら、きっと暑いな。
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