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それぞれの夜 剣士
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剣士という名前は、父親につけてもらった。
剣道を始めたのは、もう必然的だった。
「やっぱり、京谷さんには、気付かれてしまいましたね。」
俺の横でそう言って笑う東雪那。
俺の義兄弟だ。
「大体、京谷さん騙そうなんて、無理な話だよ。」
あの人は、副委員長の俺でさえ、何を考えているかわからなかったんだから。
まあ、今のトップは生意気な夢野衛だけど。
夢野衛は、俺たち役員を怖いなんて思ってない。
夢野衛が恐れているのは、唯一京谷雅樹だけだ。
ミケは、京谷さんが出て行ってすぐくらいに、部屋に戻っていった。
実質、俺と東の2人きりなんだけど……
「緊張感がないな……」
「何がですか?」
俺の隣で寛いでいる東を見て、思わずそう呟いてしまった。
こんな状況、緊張もしない。
だって、俺たちは義兄弟で、どちらかの部屋に行けば、こんな感じなんだから。
お互いの役員たちに、自分たちの関係を知られないようにとしていたけど、一歩どちらかの部屋に入ってしまえば、こんな感じだ。
「疲れましたね。」
そう言って、東はベッドに寝転がる。
まあ、正確に言えば、俺が座っているベッドに、だが。
俺は、中等部に上がる前に、母親を事故で亡くした。
父親は悲しんでいたけど、会社の経営の忙しさで、それらを紛らわしている感じがした。父親は何代も続く会社の跡取りだったから。
俺は、そこの長男として生まれた。
父親は、俺に小さい頃から剣道を習わせた。
父親も剣道をずっとやっていたからだ。
そんな父親が、いきなり再婚すると言い出した。
昨年の夏の話だ。
相手が誰とか気になったけど、1番気になったのは、父親の遺産目当てなのではないか、ということだ。
そんなことであったら、跡取りの俺としては気が気でない。
だが、俺の杞憂なんて、馬鹿げたものだった。
相手は、茶道の家元の一人娘だった。
娘と言っても、俺と同い年の息子が入るくらいの歳。
相手も経済力には、何の不安もないはずだった。
ということは、完全な恋愛結婚だ。
話によると、父親がその人に一目惚れたらしい。
相手の家は、東、といった。
俺は、息子の顔を見て、びっくりした。
いや、今思えば、東、なんて名字そういないのだから、それくらい気付けよ、って思うのだが。
東雪那だった。
相手も俺を見て驚いていた。
いや、気付けよ、っていうのは、お互い様だったらしい。
何にせよ、俺と東は、同じ部活、生徒会と風紀委員の副、兄弟、となった。
お互い、寮生活なので、同じ屋根の下、という表現はあんまり意味がない。
「そういえば、来週帰るよな。」
「はい。2人で帰ってこいって言っていましたよ。」
「親父、東のこと好きだからなー。」
「母も、箭内のこと好きですよ?」
今、俺の父親と東の母親は、同じ家で暮らしている。
だけど、箭内の会社は俺が、茶道の方は東が、継ぐことになっていて、俺たちの名字は変わらない。
「また名字で呼び合ってたら、怒られるぜ?」
「でも、名前でなんて呼べないでしょう?」
兄弟には、なったものの、お互いに名前では呼べないでいる。
そりゃ、突然名前で呼び合うなんて、無理な話だ。それに、別の理由もある。
「そりゃ、一線あるからな。それ越えたら、歯止めなんて効かない。」
「……それは、恐ろしいですね。」
なんて言って笑う東は、どう見ても、誘ってるようにしか見えない。
「……気をつけようって話したばかりだろ?」
「そうでしたっけ?」
ああ、こいつはわりと確信犯だな。
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