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クリスマスイブ~クリスマスの朝
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各務さんとの通話のあと、僕は真っ直ぐ家に帰った。
そして部屋に駆け込み閉じこもる。
今は誰にも会いたくないし、話したくもない。
友達からの連絡はないだろうし、両親や茗はスマホに繋がらなければ、家電の方にかけてくるだろう。そう思ってスマホの電源を落とした。
各務さんのこと、好きだったのに不思議と涙はでない。
胸は締め付けられるように痛むけど。
布団に入ってぼんやりしていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
だから両親や茗が何時に帰って来たのか、僕は知らない。
カーテンの向こうが明るいことに気づいて、目を覚ます。時計を見れば、8時を過ぎていた。
両親はいつも7時過ぎに出勤しているから、今家にいるのは僕と、おそらく茗。
机の上に茶色の袋が置いてある。昨日購入した新刊だ。いつ支払いしたんだろう?
ずっと楽しみにしていた本だ。だけど、心に余裕がない今はそれを読めそうにない。
今日はどう過ごそうか。
溜め息を吐きつつ、部屋を出て階下に向かう。
「…今から出かけるんだ?」
靴を履いて玄関から出るところだった、可愛く着飾っている茗。
顔だけ振り向き、微笑む。肩下まである髪が、ふわりと揺れた。
「うん。ごめんね。いつもみたいに潤と一緒にいたかったんだけど、潤も知ってる通り…」
本当に申し訳ない、が伝わる表情を茗にされると、なぜだか僕の方が申し訳なくなってきた。
茗が悪い訳じゃない。茗はだた、各務さんが好きなだけ。
茗は僕が各務さんを好きだったことを知らない。まして、付き合っていたことなど。魅力がなくて、各務さんを引き留められなかった僕が、悪い。
「ううん。いいんだ。気を付けて行ってきて?」
首を小さく振って僕がそう伝えると
「ありがとう。帰ってきたら、なんでアノコト知ったのか教えてね?まさか潤が知ってるなんて思わなかったから、各務さんから聞いてびっくりしちゃった」
「…うん」
「じゃあ、行ってくる。7時には帰るからクリスマスプレゼント、期待してて」
ウインクしながら茗が扉の向こうに消えていった。続けてパタン、と扉が閉まる音。
プレゼント…か。
毎年、僕達はクリスマスに金額を決めてプレゼントを交換していた。決めた金額の中で、どれだけ相手が気に入るかを勝負しあっているのだ。茗へのプレゼントは、今日受け取りに行くつもりだった。5月の誕生石のついた、僕がデザインしたオリジナルのネックレス。
僕へのプレゼントは二人で選んで、二人で買ってくれるのだろうか。
「二人で選んで」の部分で「二人が共有する時間」に嫉妬し、「買ってくれる」の部分で「何かを貰えること」に嬉しくなる。それに気づいて苦笑した。自分で自分のことがわからなくなる。こんなややこしい僕だから、嫌気が差してあの友人も去ってしまったのだろう。
最近、貴重な友人が1人減った。中学時代から付き合いで、僕達双子と同じ高校へ一緒に進んだ友人。茗がいてもいなくても、僕への態度が変わらなかった、本当に貴重な友人。
けど、数ヶ月前から彼は僕を避けだし、メールも会話も減っていった。終業式の頃にはすれ違う際に顔を背けるようにまでになってた。
今日みたいな、一人の時に気軽に連絡できた唯一の友人だったのだけれど。
更に落ち込んできた…。
とりあえず、ご飯食べよう。
ダイニングテーブルの上に、可愛らしい字で「冷蔵庫にサラダあるよ」とメモがあった。茗の字だ。
トーストを焼き、サラダにドレッシングをかけて、インスタントのコーヒーをいれて、一人テーブルにつく。
一人なんだなぁと実感してしまうと、なんとなく『一人でいる』のは寂しくなってしまった。どこかに出掛けようか。
しがない高校生の僕にはお金がかかるところは行きにくい。
一人で居座るにしても、今日はファストフード店やファミレスは長居しにくい。
「…図書館に行こう」
あそこなら、人がいる。知らない人ばかりだけど、今はその方がありがたい。
暖かいし、無料だし、一人でも気にされない。
本を読む集中力はないだろう。でも本を読むふりや勉強しているふりはできる。人恋しさが埋められる。
ネックレス受け取りに行って、図書館にいよう。
今日の行動を決めて、食事を済ませる。
シャワー浴びて、暖かい服を着込む。形だけでも、と教科書、参考書、ノートをカバンに詰め込んで家を出た。
上を見上げると、澄み切った青空。でも、風は冷たい。
僕の心は、もう癒えただろうか。二人に会っても笑っていられるだろうか。
マフラーに顔を埋め、笑顔の練習をしてみる。口角は上がった。
でも。
眼に力は入らない。
「帰るまでには、笑えるようにしなきゃ」
決意の呟きはマフラーの中で掻き消された。
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