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クリスマスの朝~昼
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家を出た後、僕は注文してあったネックレスを受け取りに行った。友人…今は元友人になるけど、彼の叔父さんが経営している、パワーストーンを取り扱っているお店。
だから、今回は僕の希望に沿っていて学生でも手の届く価格の物で作ってもらっていた。
「なかなか良い出来だと思うよ」
と、お店の人が笑顔で言った。この人は友人の叔父さんではなく、アルバイトのお兄さん。プレゼントの注文に来たとき、頭の中にあるイメージをどう伝えたら良いのかわからない僕に、気長に付き合ってくれて丁寧にアドバイスをくれた親切な人。
各務さんと同じ位か少しの上の年齢で、フレームレスの眼鏡が似合っているお兄さんだ。
「どうかな?」
出来上がりを見せてくれた。
茗は『ハート型』が好きだ。だから、ハートをアレンジしたステンレスネックレスに、小さな誕生石…エメラルドを付けた。エメラルドは値段が高いので、質はかなり落ちているけど。
エメラルドの意味は、『幸福』。
茗がもっと幸せになりますように、と祈りを込めた。
イメージでしかなかった物が、完成されて目の前にある。
目にして可愛い、と素直に思えた。
「素敵、です。あの、包装お願いします」
クリスマス仕様ではなく、贈呈用に包装してもらい、支払いを済ます。
茗は『クリスマスプレゼント』を、各務さんに貰っているはず。同じ『クリスマスプレゼント』にしてしまっては、僕の祈りが届きそうにないから。
「ありがとうございました」
「ねえ君、今日何か用ある?」
小さく頭を下げ、店を出ようとした僕に、お兄さんが声を掛けてきた。
「え…?」
「だから、今日クリスマスだろ?なのに、そのプレゼントはクリスマス用じゃない。ってことは、もしかして今日、空いてる?」
「え?」
同じ言葉しか返さない僕に、お兄さんは吹き出した。
「そんなに困らないで貰える?実は俺、急な呼び出しくらって…店番もうすぐ終わるんだけどさ。クリスマスなのに、一人になっちゃったわけ。寂しいな、って思ってたから。君が空いてれば、でいいんだけど。良かったら俺の店番終わった後、付き合ってくれない?」
ホントは俺、今日のバイト休みだったんだよ、とお兄さんが笑う。
いきなりの誘いに戸惑っていたけど、お兄さんの屈託ない笑顔に釣られて、僕も笑みを溢す。
「えっと、夜には帰らないといけないんですけど。昼間は空いてます」
「ホント!?やったね!じゃあさ、オーナー戻ってきたら連絡するからさ。番号教えて?」
お兄さん…勝田(カツタ) 隆之(タカユキ)さんと番号交換し、僕は店を出た。
図書館はここからだと30分以上はかかってしまうので、勝田さんの連絡が入るまで近場で過ごすことに決める。周囲を見渡すと本屋が目についた。
昨日とは違う、中規模の本屋だ。
なのに、昨日の記憶が甦る。ジクリと胸が痛んだ。
でも、それは一瞬で。すぐに痛みは消え去った。
僕は大丈夫。だって大好きな、大切な二人が共にいるのだ。
二人が笑顔でいられるのだ。
---それだけで、充分。
暖を取りつつ待っていようと、その本屋に足を向けた。
それから1時間も経たないうちに、コートの中のスマホが震えた。
「あの、」
「あ、潤君!今どこ?」
「そちらのお店の近くの、本屋、です」
「OK。今から行くね」
プツリ、と通話が切れた。
僕は本屋の入り口に向かい、自動ドアを抜ける。
外に出ると、冷たい風が吹いていた。あまりの寒さに身震いする。
お店の方を見れば、勝田さんが小走りにやってきた。
そして、僕の前に立つ。
視線を上げ、勝田さんを見る。
僕より高い身長。でも各務さんよりは少し低いかな、とぼんやりと思う。
「お待たせ。寒くなかった?」
僕が小さく首を振ると、安心したように微笑み、
「じゃあ、行こうか」
彼は僕の手を取って、歩き出した。
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