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今日はクリスマス。
カラオケボックスの中で楽しそうにはしゃぐ友人達と過ごしている俺。本当はあの友人と静かに過ごしたかったのに、とこっそり溜め息を吐く。
中学時代に知り合った友人。双子の可愛いと騒がれている姉とはなんとなく似ているけど似てない平凡な彼。いつも姉と比較されて小さくなって一歩下がっているけれど、常に一生懸命で人を支えることが上手で。自分が自分であろうとする姿勢が強くて羨ましいと思っていた。身近に比較されて自分らしさを見失ってしまった人物がいたからこそ、彼の真っ直ぐな強さを余計に好ましく思っているのに。
静かだった彼の周囲が急に騒がしくなった高校1年の文化祭。ろくに彼のことを知らないくせにやたら纏わりつき始めた野郎共。俺が密かに無理やり散らかして沈静化させたことを思い出す。彼にはうわべだけの軽い付き合いは似合わない。全てに於いて真面目で一生懸命な友人なのだ。うわべの付き合いは彼が傷つくと分かっていたから、彼を傷つける奴等が近づくことなんて絶対に許せなかった。
それほど大事な友人なのに。
あの友人とは最近口を聞いていない。話をする事が俺にはどうしてもできないのだ。『あの事』に負い目があるから。
飲んでいたグラスの中身が空になったことに気付き、ノリの良い流行りの歌で盛り上がっている友人達を室内に残してドリンクバーへ飲み物を選びに行く。
「な、お前の従兄弟だっけ?あのアクセの店のバイトの」
ドリンクを選んでいるとカラオケに一緒に来ている友人の一人が声をかけてきた。耳に光る物が目に留まり、この友人のピアス選びに叔父の店に行ったことがあったな、と思い出す。
彼はドリンクを決めて来ていたのだろう。悩むことなくアイスコーヒーのボタンを押していた。
俺は飲み物にコーラを選びボタンを押す。
「ああ、隆兄のこと?」
「そうそう。その人がさっき高柳と一緒にいたの、見かけたぜ」
驚いてボタンから手を離す。
「…っ!茗が?」
「いや、弟の方」
「潤?一体何で…」
「高柳の調子悪かったんじゃね?従兄弟さんが高柳を抱えるようにしてタクシーに乗ってたから」
アイスコーヒーを一口含んで友人は事も無げに言う。
「…っ!それ、いつの話だ!?お前いつ、どこで見たんだっ!」
詰め寄る俺の姿を変と思ったのだろう。友人が訝しげに俺を見る。
「え…と、1時間位前?ゲーセン前の道で。高柳とどっかで見た顔の人が一緒にいるなーて思っててさ。お前の従兄弟って思い出すのに…って、おい?」
ドリンクも友人もその場に放置して、借りている部屋へ走り出す。
盛り上がっているカラオケの部屋に入り、自分のダウンジャケットのポケットに入っている携帯と財布を確認する。
歌うのを止め、なんだなんだと騒ぎ出す友人達の声を無視して
「わりぃ。急用できた!!」
言い捨ててカラオケ店を後にした。走りながら携帯で慣れ親しんだ番号を探す。
―――高柳 潤
久しく連絡を取っていない彼。急に避けるようになった俺に彼は傷ついていた。そんなこと見てればわかる。何年の付き合いだと思ってる。でも仕方がなかったのだ。俺が傷つける側の人間になっていたのだから。
いや、違う。単に自分が弱かっただけ。『あの事』を潤に言って潤に責められるのが怖かったのだ。潤に『お前なんて友達じゃない』と真っ向からはっきり言われたくなかったのだ。
『お掛けになった電話番号は…』
「クソ…ッ」
無機質な機械の声が耳に届く。
イラつきながら一度通信を切り、今度は別の人物の番号を探す。
こちらはスリーコールで繋がった。
『…はい』
「おい、潤は今どこだ?」
『え?家にいるんじゃ…』
「1時間前にアイツと一緒にいたらしい。携帯も繋がらねぇ」
電話の向こうでヒュッ、と息を飲む音がする。
「俺、家電の番号知らねぇからそっちで確認してくれないか?俺はアイツ探すから!」
返事も聞かずに通話を切る。続けてアイツ…比較されて自分を見失っちまったアイツの番号をコールする。が、こっちも機械の音声だ。
「何してやがんだ、あのバカ…!」
俺はアイツのバイト先である叔父の店へと向かった。
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