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翁草Ⅲ
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「君 何て名前なの⁇
俺と同じくらいの年だよね⁇」
声の調子や明るさなど
いつもと全く変わらないのに
目の前にいる及川は 別人の様に見えた
「…岩泉… 一 …」
「岩泉君⁇」
聞き慣れない呼び方に戸惑っていると
叔母さんが 俺の方に近付いてきた
「…はじめ君… ちょっと…」
ロビーに出ると
叔母さんは 複雑そうな表情で 話し始めた
「… 徹… 記憶喪失みたいなの…」
何と無く想定していた事を言われたのに
頭に 靄がかかったようにボンヤリとして
上手くその言葉を 脳内変換出来ないでいた
「元に戻るかも解らないみたいで…
でも 本人はあんな感じだし…
夏休み明けからは 学校にも行くと思うから
色々迷惑かけるかも知れないけど
徹の事… よろしくね⁇」
「…はい」
二言で返事を返すと クルッと体を翻した
俺のせいだ…
及川が あんな事になったのは…
そもそも俺は何でショックなんて受けてるんだ⁇
離れようとしてたくせに…
『岩ちゃん』
頭の中で 昨日までの及川が浮かんだ
大好きだった… ずっと一緒に居たかった…
でも… 突き離したんだ… 俺が…
廊下を歩いているだけなのに 足が縺れて転んだ
「大丈夫ですか⁇」
と 誰かに声をかけられた気がしたけど
何も言わずに起き上がって
先程 通った入口に向かう
コレは… アレだ…
及川が 俺の事なんて気にせず
幸せになれる様に
神様が 気をきかせてくれたんだ…
頭ではそう考えられるのに 心がついてこなくて
息苦しくて 倒れてしまいそうだった
『岩泉君』
「…やめろよ…」
さっきの及川の顔と呼び声が脳内で再生されると
それをかき消すかの様に
自然と 俺の口から そんな言葉が漏れた
フラつきながら外に出ると 雨が降っていた
冷たい雨が俺を濡らして涼しさを齎しているのに
目元だけが 馬鹿みたいに熱くて
俺はその場に踞って 声を押し殺した
「…ふ…うっ…く…」
頼むから…俺の中の及川徹を消さないでくれ…
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