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《交渉》6
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「…酷くはしていないだろう…?」
フミヒコは平然とアキラを抱き寄せながら言う。
「…顔、洗わせて…」
浅く頷いてフミヒコに言う。
「どうぞ…」
フミヒコは微笑んでアキラを解放する…
「……」
アキラは息をついて、ゆっくり立ち上がりフミヒコを置いて洗面所へ足を進める…
火照った身体と顔を冷ますため、締め付けるような心のざわめきを抑えるため…
冷たい水で顔を流す…
(……最悪。)
ポツリと呟くアキラ。
誰に対してでもなく自分自身に向かって…
こんな裏切り行為をしたあとに…みずきの顔を見なくてはならない…
その後ろめたさは半端じゃない…
なのに…
力がなかったとしても、抗えず…あまつさえ感じてしまうこの身体に…
嫌悪を感じずにはいられない…
「はぁ…」
重い気持ちがアキラの胸をおさえつける…
でも、逃げるわけにはいかないし…
フミヒコだって悪くはない…
フミヒコは本来の目的を果たしたまでで、勝手言ってるのはこっちなんだから…
「……」
アキラはタオルで顔を覆うように拭き、鏡を見直す…
いつも通りの表情をつくり、気持ちを整理してフミヒコのもとへ帰っていく…。
「おかえり…落ち着いたかな?」
いつも通り柔らかく声をかけてくるフミヒコ。
さっきのことは無かったかのように普通に頷くアキラ…
「うん…フミヒコさんは?」
顔を洗わなくても大丈夫?と含んで聞く…
立ったまま聞くアキラを招きながら…
「いや、私はいいからね…隣へ座りなさい、……少し強引なことをしたが…突然、大切な存在を奪われる私の気持ちも分かってくれ…」
アキラが座ったことを確認すると、静かに肩を寄せ、話し始める。
「分かってるから…フミヒコさん、責めてない…」
アキラは、もう一度頷く…
「サクヤ…君は本当に可愛い…」
「可愛いとか…言われても嬉しくないから…それにオレのどこが…」
ポソっと納得いかないと、言い返す…
「そうかい?本当に可愛くて、手放したくないんだ…サクヤは、そんなに聡明で気丈なのに、自分自身のことは気付いていない…君は好かれる性格だから…」
「違う…」
好かれる性格…
その言葉にはすぐ反発してしまう。
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