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嘘つき道化師(岩及)
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及川徹には、幾つかの『顔』がある。
「及川さぁん!今日も練習頑張ってくださぁいっ」
「うん、ありがとーお」
「うわぁんっ及川先輩今日もいけめんんん!!」
女子にちやほやされている時の、軟派なイケメンの顔(これが自称ではなく他称な所が本気でムカつく)。
「あれ、金田一また背伸びた?」
「あ、ハイ!まだ伸び盛りなんで」
「戦力になるのは良いけどムカつくなー。試合以外の時縮むことできない?」
「…おいバカ。バカが丸出しだぞ」
「えっ岩ちゃん酷い!だって岩ちゃんもそう思わない!?」
「思わねぇからバカっつってんだ」
他人を貶めにかけようとして自分が墓穴を掘るバカ丸出しな顔(これが女子にはギャップ萌えとか言われるから解せないし世の中理不尽だ)。
「一本切ってくぞー!」
「岩ちゃん」
「あ?」
「最高の一本、必ず上げるから信じて跳んで」
「…ああ、当然だ」
そして、チームの誰もが信頼して疑わない、主将として、そしてセッターとしての顔。
それらはいつだってころころ変わるし、俺にもよく分からないタイミングで、すとん、と落とされることもある。
ただ、それに加えて。
幼馴染という不名誉な称号を得た俺だけが知る、もう一つの顔がある。
「見て見て岩ちゃん!1年の子にカップケーキ貰った!」
「ハイハイ良かったデスネー」
「反応が軽いよ及川さん泣いちゃうよ?」
「そんなお前のためにわざわざ作って来るたあ殊勝だな」
「…」
「、あ」
「……本当に、ね。」
うっかり何も考えずに返してしまった言葉に、しまった、と思う。
及川の顔から、全ての感情が消えて、瞳に光が映らなくなる。
及川徹は元々、人間に対する興味が希薄な子供だった。
それを本人が自覚し、そして俺も気付いてしまったのは、小学生の頃、あいつが初めて本気の告白というものを受けた時だった。
「岩ちゃん」
「好きって、何?」
「好きって、感情?」
「あの子は、俺が、好き、だって言ったけど」
「好き、だから、何だっていうの?」
それを発端として奴自身もようやく自分の感情の欠けていることを悟ったらしい。
好き嫌い、以前に、及川は誰か他人に対して感動を持って接しない。
他人に、それ程興味を持つことが出来なかったのだ。
腐れ縁というだけで側に居た俺のことを、あいつがちゃんと意識して見るようになったのはそれからだったかもしれない。
俺には『それ』が備わっていると思ったらしい及川は、俺の言動をじっと観察するようになった。振り返れば、及川の観察眼はこの時に養われたのだろうと今になって思う。
最初居心地悪かったその目は暫くするうちに慣れた。
俺やクラスメイトの"物真似"をすることによって、他人に興味を持つ素振りは中学に入る頃には人並みに身に付いていたし、それに伴って感情の起伏も少しは追い付いたようだった。
それでも。
不意に、自分の欠陥を意識する時。
コンプレックスに呑まれて、いつものポーカーフェイスが崩れてしまうのを。
不甲斐ないと奴自身も思っているのか、"顔"を作らない瞬間は、次第に俺の前でだけになっていた。
「岩ちゃーん」
「あ?」
「だぁいすきー」
「クソ及川寝言は寝てから言え」
「っ酷!?」
部活中のそんなやり取りを後輩が笑って見ている。へらへらとそんな嘘が軽く口から突いて出るようになっただけ成長したもんだと思う。
「俺のことバカとかクソとかばっか言う岩ちゃんはきらぁい」
「ああそうかよ」
「…ごめん!嘘だから!嘘だから見捨てないで!!」
知ってる。お前が俺に嫌いと言うそれも嘘だってことは。
お前は俺に何の感情も抱く筈がない。
全てそう思ったフリ、見かけ上の演技。
それを俺は、知っている。
だから。
だからもう、俺の前で「好き」も「嫌い」も言わないでくれないか
「岩ちゃん好きだよ、大好き。」
「…バカが」
それでも、それを嘘だと跳ね除けることの出来ない、
本当の嘘つきは、俺の方かもしれない。
to be continue...?
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