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道化師の懺悔(岩及)
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本当は一つ。
岩ちゃんに、伝えていないことがある。
「岩ちゃん好きだよ、大好き。」
そう言った瞬間、ほんの一瞬、誰にも気付かれない程度に、岩ちゃんの目に軽蔑的な色が映る。
原因は小学生の頃から分かりきっていること。
俺の「好き」が、本物じゃないから。
好きという言葉がただ純粋に分からなくて、好きという感情がただ純粋に知覚できなくて、多感な時期にパニックに陥りそうになった、そんな時。
目の前にいたのは、腐れ縁でたまたま一緒に居ることが多かった岩泉一という男だった。
正直頭が良いわけでも顔がめちゃくちゃ良いわけでもない、普通の少年だった岩ちゃんに対して、友達という感覚すらそれまでは薄かった記憶がある。
それがどうだ。気付いてしまえば彼は真っ当なことを真っ当にできる、真っ当な人間だった。俺よりも、きちんと『人間』でいられる存在だったのだ。
俺はどうしたらより『人間』らしい感情を手に入れられるか躍起になったというのに、彼はとても冷静な顔を崩しはしなかった。
ただ俺が彼や周りの人間の動作を真似てせめて"らしくあろう"としたのを、笑うでもなく、手伝うわけでもなく、ただその視線を何も言わず受け止め続けた。
俺の素性を知った岩ちゃんに対して俺が遠慮も何もなく接するようになり
バレー部という接点を変わらず持ち続けていたこの数年間、色んな空間、時間、感情を二人で共有してしてきた。岩ちゃんに今更隠せることなんてない。
そう、思ってた、けど。
ある時の試合。勝ってテンションが上がった俺は、岩ちゃんに抱き着きながら口走った。
「岩ちゃん大好き!」
その瞬間、物凄い勢いで離された身体と、目を見開いた彼の顔が、今でも鮮明に頭に焼き付いている。
何も考えずに口走った言葉だった。
今までのどんな高揚した時より胸が熱くなる気持ちだった。
あれ程、俺が欲しいと焦がれた感情だった。
それを、手に入れたのと同時に。
それを、拒絶される時の絶望も知った。
そんな感情なら要らないと思った。
不必要な想いなのだと信じ込むことにした。
それでも一度覚えたその感覚は忘れようと思って忘れられるものじゃなかった。
相変わらず岩ちゃんは隣に居る。
俺の変わってしまった心に気付いているのか気付いていないのかも分からない。
ただ隣に居てくれることは確かに心強かった。
そしてそれが何より苦しかった。
消せない想いなら隠してしまおう。
そうしていつか自然に消えていくことを願っていよう。
例えそれが何年かかったとしても、大人になって岩ちゃんと一緒に居られなくなる日がきたとしても。
それまでは、なんとしても。
この気持ちを、殺してしまおうと決めたんだ。
でも、嘘で固めた俺の振る舞いで、岩ちゃんにだけ素っ気ない態度を取るわけにはいかないから。
嘘で固めた中に、少しだけ、ほんの少しだけ本当のことを混ぜて。
狼少年は、本当のことを言っても気付かれることはない、だからこそ。
「だいすき。」
君は、嘘だと信じたままずっと俺に騙されていて…?
to be continue…?
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