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午前5時55分(兎赤)
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じんわり、汗ばむ室温で目が覚める。
緩慢に瞼を持ち上げると、多少攻撃性は低くなったものの、未だじりじりと空気を焼く太陽がカーテン越しに朝を告げていた。
遮光なんて言葉を知らない安い布地はその光にあっさり敗北している。ただ布の緑が影に色を落として部屋を淡く彩っているのが、一つ救いのようにほっと息を吐いた。
左の肩より少し上の方から聞こえる寝息に、首だけをそちらに向ける。
最近切ってあげたばかりな気がするが、また伸びて目に掛かりそうな長さになった色素の薄い前髪が重力に従って流れている。
筋の通った鼻は日に焼けて赤くなっていて、一夏の経過を物語っているように見える。けれどこの日焼けも、色素沈着しないこの人の場合あと数週間でけろりと元に戻ってしまうのだろう。
少年のあどけなさ、という表現が合っているのかは分からないが、髪をおろすといつもより少しだけ幼く見えるのが、寝ている時だと一層そう思う。
これを、自分の特権、だとか傲るつもりはないのだけれど。
一目、その飛躍の瞬間を映した時から、もうこの心は捕らわれていた。
その一瞬を切り取ったように脳裏に焼き付いた場面を思い返しては、胸が焼けるような焦燥に唇を噛み締めるのだ、何度も、何度も。
そんな人の隣に立てるようになってからは、自分の世界には一気に色がついたようだった。
負荷をかけすぎた練習に胃液を吐いた日もあったけれど、それでもコートの中でこの人を飛ばせるポジションに居るためだからこそ苦ではなかった。
そんな、特別な人に。
バレーを抜きにしても、傍に居て良いと告げられた日のことを。
今でも鮮明に、覚えている。
有頂天になるつもりはなかった。思春期の自分達に冷静な判断ができるとは思っていなかったし、彼の卒業という一つの節目で自分と物理的に距離ができれば心もいずれ離れてしまうだろうと予測していた。
それがどうだ、自分が卒業するまで一年保ったばかりか、その後同棲することになるとあの時の自分に想像する力があっただろうか。
こうして隣で寝ていて、目覚めてすぐに彼の無防備な姿を見る度に。
たまにバイトや練習が彼より早く終わって、ご飯を作って待っている間に。
真剣な表情で俺が居て良かったと呟く彼と、感情のままに肌を重ねる夜に。
何度、この奇跡のような時間を幸せと思ったことだろう。
(ああ、ただこれを奇跡と呼んでしまってはきっと木兎さんには笑われてしまうに違いない)
すぅすぅと聞こえる寝息が少し荒く浅くなってきた。もうそろそろ彼の正確な体内時計でぱちりと目が開くだろう。
そして朝のジョギングに付き合って、二人で一緒に朝ご飯を食べて、彼は一限に間に合うように家を出る。今日三限と四限だけの俺は洗い物をして、掃除と買い物まで済ませてしまおうか。
夜は練習が終わってからになるから、待ち合わせをして何処かに食べに行きたい。けれどそれは彼が起きてから相談することにしておこうと思えば、一日の始まりに胸が躍る。
(あと5分…)
その間だけ、緩慢に流れるこの幸せの時間を噛み締めよう。
ゆっくりと、木兎さんと向かい合うように寝返りをうった。
fin.
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