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最低な男の最低な遊び相手として、不覚にも気に入られて付き合い始めたのは、ほんの一年くらい前のことだ。
「ちょ、おまえ…今日しつこい…ッ」
「っはは、体力有り余ってんだよ、悪ィな夜久」
世間的にこういうのは浮気とか不倫とかそういう表現になるんだろうか。関係に名前を付けるのも馬鹿馬鹿しくていつも途中で思考放棄してしまうのだけれど。
「やだっ…もう、やらぁ…!」
本当バカみたいに絶倫で俺の身体なんか労っちゃくれないこの男と、利害の一致だけで性欲処理しあってる時間が。
何にも考えられないくらいぐっちゃぐちゃにしてくれて、頭ん中空っぽになるから好きだ。
研磨のことが大事すぎて自分の欲望を吐き出せない、見た目に反してヘタレ(良く言えば愛妻家)な黒尾くんは、抱いてくれるなら別に誰でも構わなかった俺の軽い誘いにまんまと乗ってしまって、そこからずるずると関係を断ち切れずにいる可哀想な人。俺の被害者。
それなりにバレーを本気でやるにあたって不祥事なんかは避けなきゃならない中で、秘密も守れて俺の気の済むまで(寧ろそれ以上)付き合ってくれるものだから、都合が良すぎて止められないのはお互い様だし、どちらに非があるかといえばどちらにも、としか言いようがない。
「嘘つく、なよ、まだ足りねえっだろ?」
「んぁッ……ちが、も、いらな…ってば!」
「ダウト。腰揺れてんぞ」
「っ…は、バレた?」
「このクソビッチが」
「その、ビッチに…ぁ、絞り取られてんのは誰かなぁ?」
上目遣いで舌を覗かせれば、小さな舌打ちが聞こえてきて次の瞬間には深く深く貪るようなキスが襲ってくる。
酸素が足りない目が回るような感覚に思わず中を締めれば、黒尾はあっさりと俺の中でイってしまった。
「ん、ひぅ…」
最後抜けていく感覚に一気に脱力する。
「は…気は済んだかよ?」
「まぁね。お疲れやっくん」
「その呼び方やめろ」
恋愛感情なんてものが一切混ざらない、やる事やるだけの関係。ただそれでもこいつのことは信用してるし、そのまま隣で寝落ちても居心地は悪くない。
そんな曖昧さが、丁度良い。
「明日朝練何時からだっけ」
「7時」
「あー、じゃあもう寝るわ。お前もさっさと帰れ」
「労わりってもんがねぇのかよ、酷いわぁ」
「お前を労わるくらいなら、お前にばっきばきにされた身体を労わるわ」
腰を摩りながら俯せに横になると、ふわり、その腰に温かい手が乗る。
二、三度ゆっくり撫でられたと思ったら、ぶわっと音を立てて毛布が被せられた。
「じゃあな、オヤスミー」
そのまま何事もなかったかのように、電気を消して部屋を出て行く。
そうやって、俺を気遣うフリなんかするから優男だっていうんだ。
そう内心で毒吐きながら、撫でられた感触を拭うように強く腰を摩った。
当然、黒尾の相方である研磨のことを思わなかったわけではない。
気まずいとか申し訳ないとか、そんな感情を抱かないでいられる程俺は神経図太くないし研磨が嫌いなわけでもない。
ただ利害の一致した黒尾側の要求の方が、俺にとってそのデメリットを超えて魅力的だっただけのこと。
虚しくないと言えば嘘になる。
ただ、それ以上を求める相手ではないし、今更新しい相手を探すのも億劫だった。本当に…それだけ。
そういえば以前、黒尾に一度だけ言われたことがある。
夜久は自分のことを大切にしない人間だ、とか何とか。
確かに必要以上に自分の存在価値を貶めて考えてしまっているのも分かっているけれど、それも好き好んで卑屈になったわけじゃない。
初恋は確かに、キラキラした胸の高鳴りと共にあったような気もする。
ただ今となっては、こんな性癖だと色々あるんだよ、としか言い様がないことが重なり過ぎた。
今更ときめきとか優しい睦言とか、そんなものを求めようとは思わない程には、世間擦れしてしまった自分がいる。
卒業して黒尾と縁が切れたら、その時考えよう。そう漠然と思っている程度の問題。
それに、今は打ち込めるバレーがある。
だから、大丈夫。
閉鎖された自分の世界で、自己完結しながら生きていられる。
そう、思っていた。
嵐が、来る前までは。
「はい、ラストー」
「も、無理っス…指一本動きませ…ごふぅ」
「吐血してんな起きろリエーフ」
「夜久さん鬼ー!悪魔ー!」
「起きねぇと頭に当たるぞ」
「うわああああ」
最早恒例になった体育館隅の悲鳴が今日も元気に響き渡る。
最初は心配そうに声を掛けてきたり、笑いながら茶化していた連中も、最近ではいつもの事と軽く流すようになってきた。
リエーフの「夜久さん鬼!」は口癖になったんじゃないかと思うくらいで、もう突っ込む気も失せた。
「スパイク練混ざりたい…」
「そういうのはセッターに返球できるようになってから言え」
長い手足を完全に脱力させたリエーフを起こそうと、手を差し伸べる。
すると、何を思ったかその手を取らずにじっと顔を見つめてきた。
「…何?」
「、あ、いや、何でもないっス」
慌ててわたわたと自力で立ち上がる。それに首を傾げると、何かを言いかけてぱっと口を開いた。
「っあの…」
「集合ー!」
「ぁ、うぃーす!」
明らかに言葉の途中だったのを黒尾の掛け声に遮られて、続きを聞く暇もなくリエーフはいそいそとそっちに向かってしまった。
何か言いたいことがあるなら溜め込まずに言って貰った方が、こちらとしても安心できるのに。そう思いながら、自分もその背を追いかけた。
「夜久さん今日買い食いしに行きますかー?」
「んあ、今日は止めとく。新しいサポーター買ったから財布に金入ってねぇんだよ」
今にも帰ろうという姿勢の虎から声を掛けられて、着替えながら辞退をするとあからさまに残念そうな声が返ってくる。
それに手を振って応えると、買い食い組はぞろぞろと連れ立って出て行った。
残されたのは俺と、黒尾を待っている研磨のみ。
「じゃあ俺も帰るわ」
「え…あ、うん。お疲れ」
スマホからふいっと顔をあげて一瞬こちらを見たが、そのまま視線は手元に戻される。
変わらないいつも通りの反応に苦笑いしながら、部室を出た。
実際、研磨が俺のことをどう思ってるのかは分からない。
あの聡い研磨が、俺達のやっていることに気付いていない筈がない。それは恐らく黒尾も分かっている。
ただ研磨は、何も言わないし、顔にすら出さない。
大抵警戒している相手はじっと見つめて観察するのに、俺が黒尾と話していてもこちらを見つめてきたことはない。
その静けさが、逆に怖いと思ったことはある。
元々黒尾と研磨の仲を邪魔したいわけじゃなかったから、研磨が黒尾に愛想尽かして別れるなんて言い始めたら俺は黒尾の前で首を吊らなきゃいけなくなる。
ただ今でも二人は一緒に帰ってるし、傍目に見てもバカップルだから、今のところその心配はなさそうだけど。
そんなことをぼんやり考えながら、校門に差し掛かった時。
「っ…夜久さん!」
不意に呼び止められて、思わずびくっとする。
「…びっくりした。なんだリエーフか」
「なんだって酷いですよう」
校門に寄り掛かっていたのだろう身体を起こしてこちらを見下ろしてくると、ひょろっとした身長からおりる影が被さってきて逆光になる。
「皆と一緒に行ったのかと思ってた」
その表情が読めなくて、少し怪訝そうな声が出てしまう。
「待ってたんです、夜久さんを」
「俺?」
ああそういえばさっき何かを言いかけていたな、と思い出す。
「なんだ、わざわざ待ってたのか…さっき部室で言ってくれれば」
「いや、その、」
遮るように、声が降ってくる。
何となく焦ったような、落ち着かない、裏返りかけた、少し高めの声。
「みんなが居る前じゃ、ダメなんです」
「…?」
見上げなければ合わない視線が、そわそわと所在なく彷徨う。
それと、目が、合った瞬間。
「俺、夜久さんが好きです」
湿気った風が、ざわり、駆け抜けた。
to be continue...
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