アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
dummy.2
-
「どうした」
「?…何が」
「とぼけんな。上の空って顔しやがって」
いつもはキス一つであっという間に男を喰う淫乱に変わるのに、今日は難しい顔をしたまま舌の動きも鈍い。
さすがにそんな相手にガッツく程俺も飢えていないし、寧ろ萎える。
「止めるか?」
「ん、やだ…」
駄々っ子のように首に縋り付いて顎の辺りに唇を合わせてくる。ただその目はやっぱり何処かぼんやりしていて、別な事を考えているのが瞭然だった。
「夜久。やーく」
「ぁ?」
「正直に答えねぇと俺は動かねぇぞ」
「っ…やだ、ちゃんとする、から」
啄ばむような拙いキスが、顎から首、首から胸の方へと下りてくる。
一瞬ちらりと上目遣いで俺の顔を伺ったかと思えば、その手がジッパーにかかる。
「できんの?」
「っ…する」
本当にするのか、と揶揄うつもりで笑いながら言ったのに、案外切羽詰まった声が返ってきて驚いてしまった。
一瞬止まった俺の動きをどう受け取ったのか、夜久の唇がきゅっと結ばれる。その顔があまりに扇情的で、つい俺も調子に乗せられる。
「じゃあ、俺をその気にさせて」
ヤケになってるのか何だか知らないが、性急に俺のモノを咥え始める夜久の顔はやっぱり浮かない。
それでもさすがに本気になったこいつの舌は気持ち良いし、たまに漏れる息も声も表情も全部がエロいから、挑発した割りに堪えるのが辛い。
最初こそ軽い気持ちで始めた関係なのに。
身体の関係が切り離せないのは、正直マズイと思う。
まあ、それでも恋愛感情とは程遠いのだけれど。
「最後までシたい?」
「くふ…ん、入れて…っ」
口の中に収めきれずに、吐く息が鼻にかかって甘えたような響きを含ませる。
それが、酷く嗜虐心を煽る。
「じゃあ自分で入れてみな」
「っ…」
潤んだ目が更に溢れるんじゃないかというくらい涙を湛えて揺れた。
それについ、にやにやと口元を緩めると、キッと睨みつけられる。
「…やってやろーじゃんか」
買い言葉を吐く声も弱々しく掠れていて、熱い息に負けてしまいそうな。
その声まで食べてしまうように、勢いで唇に噛み付いた。
「んっ…ふ…!」
苦くなった咥内を拭うように舌で辿ると、おずおずと俺を跨いで自分で後ろを解し始める。慣れた手つきでローションを垂らす姿は、薄目に見てもやっぱりエロい。
「ッんー!」
ぐちゅり。響く粘着質な音に、夜久の目がキツく閉じられる。
ゆっくりと腰を下ろしながら上がる悲鳴が、殺しきれずに鼓膜を撫でていく。
「っ…は、だめ、いま触ったら、だめぇ…!」
「じゃあさっさとハメきっちまえよ」
「やっ…あああ」
ハジメマシテの時には既に開発されていたこいつの後ろは、正直入れるだけで気持ち良い。
ただじりじりと腰を下ろされるのは俺にとっても生殺しで、焦れて思わず結合部を指で押し広げると、文句を言いながらもかなり奥まで俺を咥え込んだ。
「やーく。動けよ、イケねぇだろ?」
「、んン…!」
下から小刻みに揺らすと、潤みきった目で精一杯懇願してくる。
それでも最初の脅し通り突かずにいれば、諦めたようにゆっくりと腰を上げた。
「はッ…あぁぁぁんっ」
「えっろ」
「ぅ、るさっ…んぅ」
耳元でわざと声を掠れさせて囁くと、真っ赤になって声を抑えようと唇を噛む。
それを邪魔するように唇を割って舌を抉じ入れると、さすがに怒らせたのか背中に思いっきり爪を立てられた。
「ってぇ…!」
「自業自得だ、ばぁか。な、それより、ぁ、動けって」
「んー?」
焦れたのか両手で頬を挟み込まれて、軽く睨みつけられる。それにもまたにやりと笑って返すと、ふにゃ、と泣きそうな顔になってまたちゅっちゅと耳や首に口付けられる。
「なぁ、くろおっ」
「だぁめ、俺最初何て言った?」
「っ…そんな、ぁ」
「…何から逃げてんだ?」
核心を、突く。
夜久の目が、ぐらりと揺れた。
「なに、て」
「とぼけられると思うなよ」
「ッ…」
困惑した引き攣った口角を無理矢理笑みに変えて誤魔化そうとするのを、先回りで禁じる。
溢れる、と思っていた涙が、ついにぽろぽろと頬を濡らし始めた。
「、黒尾には、関係ない」
「どの口がそんな事言えんだ」
頬を挟み込んで指の腹で拭う。そうする間にも新しい涙がこぼれて、掌を濡らしていく。
「お前が思ってるより、俺はお前のこと見てんだからな」
汗で張り付いた前髪を梳いて、頭をぽんぽんと撫でると、一瞬目を見開いて、それからぱっと目を逸らした。
「吐けよ。何があった」
「…」
詰問にならないように努めても、夜久の目は逸らされたままこちらを見ない。
そして返答を全て拒絶するように、何も言わず俺の上半身を押し倒して腰を擦りあげ始める。
「おい…っ、夜久!」
「ん、く…ふ、」
拒絶して、押し殺して。
ただ何も言わせないとばかりに快楽に身を任せようとする。
「はぁっん…!」
「お前、」
「っ…だめ、おれには、」
「あ?」
「俺にはもう、こんなことしかできないの」
涙でぐちゃぐちゃになった目が、虚ろに空を彷徨う。
その瞳の頼りなさに、一抹の不安がどんどんと膨らんできて、一つの最悪な仮定に行き着いた。
「まさかお前、また誰かに」
「ちがう、違うけどっ」
誰かが、俺の知らないところで、夜久を傷付けている。
俺が、壊さないように、壊されないように、気をつけて目を光らせていたのに。
なのに。
「…誰だよ」
「ッ…!?」
力もさして入ってなかった腕を掴み上げて、体勢を入れ替える。急に視界が入れ替わった夜久が一瞬声にならない悲鳴を上げたが、それを気遣う余裕なんてなかった。
「誰のこと考えて泣いてんの」
「いたっ…くろお、痛いっ」
掴んでいた夜久の腕に、つい力がこもる。
何故か、自分でも訳が分からないくらいの苛立ちがこみ上げてきて、どうにも抑えきれない。
「正直に言えって。じゃねぇとこのままヤリ倒しそう」
「っ…ひ、あ」
突然の俺の豹変に、怯えた顔をする。
そんな顔をさせることは本意じゃない。
だとしても、
「…りえ、ふ」
「、は?」
「リエーフ」
絞り出した声が、告げた名前。
「俺のこと、好きだって」
「告られたのか?」
「…あいつが、思うような人間じゃない、のに…っ」
何でだ。
想定はできた筈の答えなのに。
頭を思いっきり鈍器で殴られたような衝撃が、今の一瞬で走ったのは。
しかし、何よりも。
その告白を自嘲気味に笑うでもなく、ただ純真に、荒んでしまった自分の方を嘆いている夜久の在り様に。
「…くっそ、そういうことかよ」
「ぁ、ごめ、くろお、ごめ…なさっ」
「謝んな」
何故今日一日上の空だったのかが分かって腑に落ちたのと同時に、矛先を失った苛立ちがぐるぐると腹の底を渦巻く。
「それで、如何したい」
「…どう、って」
「お前は、それを受け入れたいのか」
それとも、拒絶する気でいるのか。
「おれ、は…」
夜久は、強くて、脆い。
自分の心と、マイノリティ排除に躍起な社会と、常に闘い続けてきた。
過去に負った傷を自嘲しながら、それでも夜久は自分を殺さずにここまで生きてきて、そして俺と出会った。
何度も、何度も、言葉と視線の刃を向けられてできたカサブタは、がちがちに固まって確かに夜久を強くしてきたんだろう。
それでもカサブタの中身はどろどろと膿を溜めたまま癒えずに、ずっとこいつを苦しめているのかと思うと、余計な世話と分かっていたって手を差し伸べずにはいられなかった。
せめて俺で発散できるならそれで良い。
お互いに都合が良いと思っていられる関係なら、夜久の心にこれ以上重荷を背負わせずに済むかもしれない。
抑圧され続けてきた夜久の心が、そうすることで少しでも救われることを祈るしかなかった。
…その俺の行動が、研磨を傷付けているとしたら。
それは一番最初に考えた。でもいくら考えても夜久と始めた関係を切るという選択肢には、目を向けたくなかった。
…夜久が、本当に心を開ける人間と付き合えたなら。
それも一つ考えたことだ。寧ろ叶ったなら一番理想的な形になるんだろう。
ただ安易に願えなかったのは、夜久の心が頑なに壁を築いて警戒していたからだし、俺としてもこいつが生半可な気持ちで近付く奴に傷付けられるのが、何より許せないと思っているからだ。
だから、せめてこいつの心がもう少し癒えるまで。
一人で泣かなくなるまで。
泣いてるこいつの隣には、俺が居てやりたい。
そう、だから。
夜久を傷付けるだけなら、俺はそいつを近付かせるわけにはいかない。
それが例え、俺のエゴでしかないとしても。
「リエーフ…」
夜久の口から吐かせた名前を口の中で反芻する。
懐いているのは分かっていた。
それが最近特に熱を帯びていることも。
ただ、リエーフがそれを夜久に伝えることはおろか、恋という自覚さえしていないのではないかと高を括っていたのが実のところ。
その認識の甘さで事前に予防線を張っておけなかった自分に、何よりも腹が立つ。
純真さでは何処ぞのチビちゃんと張る。寧ろ小学生の背だけ縦に引き伸ばしたような男だ。
リエーフが夜久の毒気に当てられるくらいならまだ良いが、その無邪気な残酷さで夜久が傷付けられるのが一番恐れていること。
余計な口出しはしたくないが、できれば淡い夢見がちな恋心のままで終わらせてしまえないかと画策せずにはいられない。
「どうしたの、昨日から険しい顔してる」
「…険しいか?」
「少なくともいつものニヤケ顔よりは」
パウチ飲料を咥えたまま喋る研磨が、ちらりと俺の顔を横目で覗う。
「リエーフが何かやらかしたの」
「や、別に問題起こしたわけじゃねぇよ」
「ふぅん…」
興味があるのかないのか分からない返答に、その続きを話すのを躊躇う。
相関の中心に夜久が居る以上、あまり研磨を関わらせたくはない。
あくまで俺は研磨が居てこその俺だし、研磨も俺が居てこその研磨だ。それが揺らぐ余地を作るつもりはない。
それはいつだって変わらないことだ。
「あいつ、いつになったらまともに使えるようになるかなってのが目下の俺の悩みなわけよ」
「それは本人に訊いて」
だから、いつも通りを心掛けて、話を繕う。
…恐らく、俺が何かをはぐらかしたのだということには、今の一瞬で勘付く筈だ。
ただ、それが深追いするなという俺の合図であることも研磨なら分かってしまうだろう、否が応でも。
それでも、研磨は眉一つ動かさずに再びプラスチックの飲み口を咥えてじゅっと吸い上げる。
お前にとっての“絶対”は、研磨だけだろう。
そう言ったのは夜久だ。そして正しくその通りだと思う。
「研磨」
「…なに」
訝しげに顔を上げた瞬間に、触れるだけのキスをする。
「…で?」
「で?ってお前、」
だから何。という言葉を口ではなく顔全面に押し出しながら見上げてくるから、思わず苦笑いと溜め息が出る。
大事な大事な、俺の片割れ。
こればかりは汚さないようにと、必死に高いところに置いて、囲ってきた。
ある意味、夜久とは対極の存在。
夜久がたまに、研磨の裏も表もない物言いを苦笑しながら、一瞬羨むような、泣きそうな顔をするのを知っている。
その度に、どちらも守らなければという欲が湧いてしまうのは、俺の中ではもう仕方ないことだと思う。
そう、仕方がないことだ。
だから。
「愛してんぜ、研磨」
「…知ってる。それ聞くと寒くなるから止めて」
恨まれるかもしれない。
不信感を抱かせるかもしれない。
それでも俺はこれから、俺自身の“最良”を選ばなければならない。
to be continue...
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
14 / 27