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阿吽の素性(岩及)
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「あ、マッキーちょうど良いところに!」
「何もちょうど良くない俺を巻き込むな俺を盾にするな俺は速やかに部活したいんだ離せ」
「お願い愛しい及川さんのピンチだよ!?救ってよ!!」
「誰もお前なんか愛しくねぇぇぇぇ」
「そこかクソ及川!」
体育館に向かって渡り廊下を歩いていたところに、ウマシカよろしくダッシュで駆け込んできた及川に背中を取られて嫌な予感しかしないまま岩泉と対面させられた。
この間10秒にも満たず俺は何がなんだか全く事態を把握できていない。
が、しかし。
「ほれ岩泉、受け取れ」
「おう、サンキューな」
「俺を売るのかマッキー!!」
「バカめ。俺が岩泉とお前の二択を迫られて何故お前につくと思った」
当然事態を把握していなくても及川の目の前にブチ切れている岩泉がいたら、自分に火の粉がかかる前に及川を差し出すに決まっている。同情の余地はない。
「今日も飽きずによくやんなぁ」
盛大な頭突きを食らって伸びている及川を放置したまま岩泉と体育館に入る。
先に来ていた松川がこちらを見て、ああ終わったか、という顔をしているのが見える。
「今日は何した、あいつら」
アップのためにコート外周をぐるぐると走りながら、横に並んだ松川に訊いてみた。
「や、なんか岩泉の小っさい頃の話を及川がしはじめて岩泉がキレた」
「なんじゃそら」
「話の発端は及川が誕生日に女子から大量のプレゼント貰ったって自慢からだったんだけどな」
「何でそっから岩泉を巻き込む必要があったんだ」
「そら話し手が及川だからだろ」
「…悪ィ愚問だったわ」
及川が話している時に岩泉の名前が出ることに何の疑問も持ってはいけない。
ツッコミを入れたくなるたびに、入れたら入れただけ及川を黙らせるのが難しくなるからと、周りの部員が互いに牽制し合っていることだ。
「んで小っせえ頃の岩泉が何したって?」
及川の話は基本的にどうでも良いが、岩泉の幼少の頃となれば多少興味はある。
「あぁ、それが俺も本題入る前に飽きてよく聞」
「岩ちゃんの方が昔は女の子大好きだったんだよーって」
「っ…及川いつの間に復活した」
「やだなぁ裏切ったうえに俺のこと放っぽってくなんて酷いよマッキー」
「断じて俺は裏切ってねぇ最初からお前の味方じゃないと何回言えば」
「そうそうそれでね-」
「聞けよ」
嬉々として、というか寧ろ自慢気に話し始める及川を尻目に、岩泉の位置を確認する。
幸い一年達と話している最中らしく、今すぐ及川をぶん殴りに来る危険はなさそうだ。
「低学年の頃はまだあんなぶっすーとした顔してなくて可愛かったの!」
「…おい可愛い岩泉って想像できるか」
「いや無理」
「近所のおねーさんにもおばちゃんにも愛想振りまくっててモテモテでさぁ、クラスの女の子たちにもすんごい優しくってきゃあきゃあ言われてたんだよー」
女の子に優しくてきゃあきゃあ…まで聞いて脳が思考停止する。
確かに岩泉は女子に優しくないわけじゃない、が。
それはちょっと別な町の別な岩泉さんじゃないのかと思う。
「それ本当に岩泉か?」
「本当だよー俺の幼馴染みの岩ちゃんは一人しかいないよ?」
全く同じことを考えていたらしい松川の唖然とした質問にも、及川はけらけら笑って答える。
「それが何でああなったんだって事だろ?」
いつになく機嫌良さげな及川の顔に、なんとなく嫌な気配を感じながら、それでも訊かずにはいられない。
「それがねぇ、」
小学校も半ばになった頃。
クラブチームに入って、いわゆる『スポーツできる男子かっこいい』枠に数えられるようになって、女子からの目線が熱を帯びてきた辺り。
岩泉の様子が変わったのは、その時も及川の誕生日。
今程ではないものの、それまでに比べたらそこそこの量のプレゼントを貰った及川が、純粋に喜ぶ姿を見て(その頃のショタ及川カムバック!)岩泉は急激に女子への態度を硬化させたという。
「その時岩ちゃんがぼそっとねー」
「、あ、及川…」
「女になんかヘラヘラしてんじゃねぇよって」
「…」
「自分こそ、それまでヘラヘラしてたじゃんかってねー」
「…で?昔話は済んだか?」
「……………てへぺろぉ」
いつの間にか俺らの後に気配を消してぴったりとくっついていた岩泉が、スッと及川の背後をとった。
「今度こそくたばれクソ川!」
「岩ちゃんの愛は痛いから嫌だ!!」
そのまま、また二人でドタドタと追いかけっこを始める。
今度は国見を盾に取って、またうんざりした顔で見放される及川は本当に…まあ何というか、岩泉に愛されている自覚というか、絶対的な自信があるんだろう。
「…結局何だ?ただ惚気られただけなのか?」
「いつもの事だろ。それよりビブスどこだ」
「…お前も大概心臓強いよな、松川」
夫婦漫才の如き茶番から早々に目を逸らして練習を始めようとする他の部員たちの、まあ何と心強いこと。
「こんな奴らが隣にいたんじゃ、己の青春とは何なのかと思わずにはいらんないんだけど」
「変なことで悩むな。知恵熱出るぞ」
「…何気なく俺のことまでバカにすんのやめてくれん?」
ジト目で松川を見つめると、ふっと笑って背中をぽんぽんと叩かれる。
その意味を一瞬汲みかねたが、号令のホイッスルの音に思考は邪魔されてそれっきり。
とりあえず冷静になった頃の岩泉に、今日の件の真偽の定かは聞いておこう、と密かに決意した。(嘘だったら及川絶対ぇ許さねぇ!)
fin.
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